生活保護受給者に後発薬 社会の公平性どう考える - 毎日新聞(2018年5月29日)

https://mainichi.jp/articles/20180529/ddm/005/070/099000c
http://archive.today/2018.05.29-001445/https://mainichi.jp/articles/20180529/ddm/005/070/099000c

生活保護法改正案が今国会で成立する見通しとなっている。4兆円近くに上る生活保護費の約半分を占める医療費を抑えるため、受給者には原則として低価格の後発薬(ジェネリック医薬品)を処方することが盛り込まれている。
生活保護費の膨張は抑えなければならないが、受給者だけ後発薬を義務づけることには異論も根強い。
新薬の特許権が切れた後に、別の会社が同じ有効成分を用いて作るのが後発薬だ。新薬開発時に有効性・安全性は試験済みであるため、開発期間は平均で3〜5年と短い。価格も新薬の3〜7割と安い。
政府はこれまでも受給者への後発薬処方を進めてきたが、現在72%にとどまっている。薬効は同じでも、新薬とは形状や添加物が異なり、溶け方や塗り心地が違うことから、後発薬を嫌がる人がいるためだ。
受給者だけでなく、政府は国民全体にも後発薬の使用促進を図っている。ジェネリック医薬品の使用割合が1%上がれば10億〜15億円は削減できる。医療費全体の膨張を抑えることにつながるためだ。
ところが、日本全体の後発薬の使用の割合は現在65%。米国の90%をはじめとする諸外国に比べて低い。このため、2020年9月までに後発薬の使用を80%にすることが、昨年6月に閣議決定された。
生活保護の受給者だけをターゲットにするよりも、国民全体で後発薬の使用を進める方が医療費を抑える効果ははるかに高い。お金のない人を自動的に後発薬とすることによる差別感を避けることにもなる。
日本には貧困層への医療に配慮してきた歴史がある。1911年には貧困者に無料で薬の投与、治療を行う「施薬救療の大詔」が発せられた。雇用労働者を対象にした旧健康保険法の施行(27年)より前のことだ。現在も保険証のない困窮者に対して無料低額診療制度がある。
高齢化や医療技術の進歩で今後も医療費は増加することが予想される。負担増や受診制限など、厳しい政策の検討も避けられないだろう。
社会的公平性を守りながら、医療制度を持続可能にするには何が必要か。公的医療が担ってきた社会に対する国民の信頼や連帯感についても深く考える必要がある。