2040年度の社会保障費試算 議論封印の遅れ取り戻せ - 毎日新聞(2018年5月22日)

https://mainichi.jp/articles/20180522/ddm/005/070/028000c
http://archive.today/2018.05.22-001129/https://mainichi.jp/articles/20180522/ddm/005/070/028000c

危機が迫っているのに議論することを安倍政権は封印してきた。その危機の深刻さを改めて見せつけたのが、政府が公表した2040年度の社会保障給付費の試算である。
18年度の社会保障費は121兆3000億円だが、65歳以上の高齢者の人口がピークを迎える40年度には最大で190兆円に達する。約1・6倍にも膨らむ計算だ。どうやって70兆円もの財源を作り出せるのか。安倍政権は早急に中長期的な対策を講じなければならない。
経済財政諮問会議で示された試算では年金が18年度の約1・3倍の73兆2000億円、介護が約2・4倍の25兆8000億円、医療は66兆7000億〜68兆5000億円だ。
政府はこれまで最も人口の多い団塊世代がすべて75歳を超える25年までの推計値しか出してこなかった。しかし、高齢者人口はその後も増え続けることが人口動態の調査からわかっていた。
安倍政権はアベノミクスによる好景気で税収が増えることを目指すというばかりで、国民の負担増や支出の抑制策については本格的な議論をしてこなかった。
旧民主党政権時の12年に3党合意で税と社会保障の一体改革が決まったが、安倍政権に代わってから消費税は8%には引き上げたものの、10%への引き上げは2度にわたって延期した。3党合意からの6年間に高齢化は進み、社会保障費は9兆円近く増えている。
一方、現役世代の人口は減り、働き手不足も深刻だ。厚生労働省によると介護職員は25年までに新たに約54・7万人確保する必要があるという。財源も人材確保もこれまでのような小手先の改革では、社会保障の諸制度は持続できるわけがない。
経済財政諮問会議は国の経済や財政の骨格を決める司令塔だ。これまで長期的な社会保障の議論を怠ってきた責任は重い。
安倍晋三首相はきのうの諮問会議の席上、25年までに目指す医療機能別病床数への対応について述べるにとどまった。試算は40年度までに社会保障費が急膨張することを示しているのに、相変わらず25年までの政策しか語らないのは不自然である。
長期的な社会保障改革をこれ以上遅らせるわけにはいかない。