言葉はほとんど話せないけど…  鼻歌交じりに生み出す驚きのアート - 沖縄タイムズ(2018年3月27日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/213853
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◆青葉のキセキ−次代を歩む人たちへ− 第3部 自分らしく生きる 千奈 私のしあわせ(上
5畳半の部屋から鼻歌が聞こえてくる。足を組み寝そべりながら、新城千奈(27)は黒のボールペンを握り、線や長円を組み合わせた文字を描いている。文字が画用紙全体に連なり、一つの形ができあがっていく。
19日、沖縄市美原にある千奈の自宅。母の由紀(51)が部屋をのぞき、「絵、見ていい?」と声をかけた。千奈は「だめ、だめ」と言い、ニコニコしながら絵をかばんの中に隠す。由紀が部屋を出ると再びペンを動かし始めた。千奈はトイレや風呂、食事の時以外、ずっと部屋にこもって文字や絵を描いている。「10歳ごろからこの格好で描く毎日。不思議だなと思うけど、これが千奈の生き方なんです」と由紀はほほえむ。
千奈は1990年、由紀の長女として生まれた。2歳の時、目を合わさず落ち着きもないため医師に相談すると「自閉的傾向がある」と言われた。生まれつき言葉はほとんど話せない。20歳で受けた知能検査では「3歳半ぐらい」で中度の知的障害と診断された。特別支援学校を卒業し、今は自宅近くの就労自立支援センターに通う。由紀によると友人はおらず、外出はほとんどしない。
そんな千奈に光が当たったのが、昨秋に県立博物館・美術館で開かれた障がい者の美術展「アートキャンプ2017 素朴の大砲」だ。2001年に始まった同展は5回を数え、出品者にはフランスなど海外での作品展に出品する作家もいる。千奈は今回、初めて出展する7作家の1人に選ばれ、これまで描いてきた作品8点が展示された。
出展を勧めた同美術展実行委員代表の朝妻彰(68)は、千奈の作品を初めて見た時の驚きを覚えている。「独特な形の文字が連なり、これまで見たことのない造形美だった。色を徹底して塗るので、白い部分が浮き立ち、見るものに迫ってくる。直感ですごいセンスのいい作品だなと思った」
展示会の初日、千奈は由紀と見に行った。作品が展示され、他人が鑑賞する様子を鼻歌を歌いながら見つめていた。「うれしいと思っているはずよ。生まれてずっと一緒にいるからだいたいの気持ちは分かる」。この時、由紀はこう語った。今、千奈との27年間を振り返り、しみじみと言う。「でもやっぱり『こう思っているだろう』なの。本当は何を考えているか推測するしかない。話せるようになってほしいとどんなに思ったことか」=敬称略(社会部・伊藤和行