(筆洗) - 東京新聞(2018年3月27日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018032702000133.html
https://megalodon.jp/2018-0327-0920-04/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018032702000133.html

その行進で、歌手・女優のジェニファー・ハドソンボブ・ディランの「時代は変わる」を歌っていた。若い世代が古い時代を変えていく。<今は負けている人もやがて勝利をつかむだろう。時代は変わっていくのだから>。そんな歌だった。
全米各地での銃規制を求める大規模行進。主催したのはフロリダ州の高校の生徒である。その高校では二月に銃乱射事件によって十七人が亡くなっている。
首都ワシントンでの行進には約八十万人(主催者発表)が集まった。仲間を銃に奪われた高校生たちの声は歴史的な規模の集会へと姿を変えた。おそれいる。
生徒の一人がこんな演説をしていた。「カルメンはピアノの練習で、文句をいうことがもうできない」「ヘレナは放課後に、友だちとぶらつくことがもうできない」−。命を奪われた級友の名と、それぞれの「もうできないこと」。あの悲劇さえなければ、今もできた、悲しみと怒りのリストである。
時代を変えることはできるか。暗殺、乱射。相次ぐ銃の事件にもびくともしなかった米国の歯車を若者が今、少しでも動かそうともがいている。大人たちが手を貸そうとしている。それが、「八十万人」の意味であろう。
あの女性歌手も母親を銃の凶行によって奪われている。身近にいた人を銃で亡くした悲しみの力が一つに集まろうとしている。「時代は変わる」を祈りたい。