(余録)敗戦の翌春、占領軍司令部を訪ねた吉田茂外相は… - 毎日新聞(2018年2月28日)

https://mainichi.jp/articles/20180228/ddm/001/070/145000c
http://archive.today/2018.02.27-213610/https://mainichi.jp/articles/20180228/ddm/001/070/145000c

敗戦の翌春、占領軍司令部を訪ねた吉田茂(よしだ・しげる)外相はマッカーサー司令官になじられた。「冬は数百万の餓死者が出るといって援助を求めてきたのに、そんなひどくなかったではないか。日本の統計はでたらめだ」
吉田は平然とやり返したという。「当たり前です。統計が正確ならあんなバカげた戦争はしないし、統計通りいけばこっちの勝ちいくさだ」。吉田当人がマッカーサーとの信頼関係ができたきっかけとして披露していたエピソードだ。
それから72年、今では日本の役所の調査統計の信頼度は世界最高クラスと思っていたら、この騒ぎだ。安倍(あべ)政権の鳴り物入り看板政策たる働き方改革関連法案を、提出前にしてピンチに追い込んだ厚生労働省のとんでもデータだった。
もともと労働側が求める残業時間の上限規定など労働規制強化と、使用者側が求める裁量労働制の対象拡大など規制緩和を抱き合わせた関連法案だ。その裁量労働制に関する調査データから現実にはありえない異常値が続々出ている。
裁量労働制は一般労働より労働時間が短いとのデータに言及した首相答弁撤回から広がったこの問題だ。この不適切なデータ比較は以前から使われ、調査データ自体からも疑問が噴出した。野党が再調査を求めるのは成り行きである。
「統計は街灯の柱と酒を飲むようなものだ。照明よりも支え棒として使える」とはチャーチルの言葉という。抱き合わせた働き方改革の諸課題はどうなるのか。あまりにお粗末な目玉法案の支え棒である。