木村草太の憲法の新手(73)ブラック部活動 強制参加は生徒の自由侵害 子ども目線で見直しを - 沖縄タイムス(2018年2月4日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/204730
https://megalodon.jp/2018-0204-1009-08/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/204730

1月16日、スポーツ庁は、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン骨子(案)」を示した。そこでは、「適切な運営のための体制整備」、「合理的でかつ効率的・効果的な活動の推進のための取り組み」、「適切な休養日等の設定」、「生徒のニーズを踏まえたスポーツ環境の整備」、「学校単位で参加する大会等の見直し」の5項目に整理して、都道府県や教育委員会、学校長などが取り組むべき課題が指摘されている。
「ブラック部活動」という言葉が生まれるほど、学校の部活動についてさまざまな問題が指摘されている。そんな中、スポーツ政策を所管する同庁が部活動健全化に取り組むことは歓迎されるべきだ。
報道もこうした動きを後押ししている。例えば、朝日新聞掲載の、ダルビッシュ有投手のインタビューでは、「日本の高校野球では、正しい知識を持たない監督やコーチが、自分の成功体験だけに基づいて無理を強いる。そういう側面があると感じます」、「指導者には正しい知識を身に付けて欲しい。例えば休養の重要性です。筋力トレーニングは、ほぼ毎日頑張るよりも、週に3日程度は休みながら行う方が結果は上になったりするのです」と指摘する(朝日新聞デジタル2018年2月1日)。
ブラック部活動改善については、政治の側からも後押しがありそうだ。というのも、前回の衆議院選挙の際、自民党公明党共産党などが、教師の過重負担軽減を選挙公約に掲げていたからだ。
13年実施のTALIS(Teaching and Learning International Survey 国際教員指導環境調査)によれば、1週間の勤務時間は加盟国平均の38・3時間に対し、日本は53・9時間で最長だった。授業時間は参加国平均と同程度(平均19・3時間に対し、日本は17・7時間)であるが、課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間が特に長いという。教員の過重負担軽減には、部活顧問の見直しが必要だろう。

我が国の教員(前期中等教育段階)の現状と課題– 国際教員指導環境調査(TALIS)の結果概要
http://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/imgs/talis2013_summary.pdf
OECD国際教員指導環境調査(TALIS)(※国立教育政策研究所ホームページへリンク)
http://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/

ただ、ブラック部活動問題を考える時にはやはり、「子どもの権利」を主軸とするのが筋ではないか。教員が部活に忙殺されているならば、子どもたちも部活で疲れ切っているはずだ。これは、児童の権利条約31条が定める、「休息および余暇についての児童の権利」の侵害だろう。
もっと言えば、部活参加を強制しているならば、たとえ休養日を設けていようと生徒の自由を侵害しているのであり、それ自体が問題だ。しかし、スポーツ庁が全国の中学校について無作為抽出で実施した調査の集計速報(17年11月17日発表)によれば、公立で3割、私立でも1割強の学校が、生徒に部活動を強制している。
部活動については、「部活動は非行防止に役立つから強制すべきだ」との意見もある。しかし、「部活動をやらないと子どもは非行に走る」などと考える大人は、子どもに対し異様な不信感を向けていることを自覚すべきだ。そんな大人は、部活動に関わったり、意見を述べたりする資格はない。
部活動は、本来、楽しい活動で、教師も子どもも自主的に参加したくなるものだ。強制しなければ継続できない部活なら、やめた方がいい。(首都大学東京教授、憲法学者

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僕が監督なら、週2回は休む ダルビッシュ高校野球論 - 朝日新聞(2018年2月1日)
https://www.asahi.com/articles/ASKDW52PVKDWPTQP00M.html
http://archive.today/2018.02.01-005219/https://www.asahi.com/articles/ASKDW52PVKDWPTQP00M.html

全国高校野球選手権大会は今夏、第100回を迎える。宮城・東北高時代に準優勝を経験し、その後、日本ハムをへて海を渡ったダルビッシュ有投手(31)が、高校野球への思いを語った。球児へのメッセージは「頑張らない!」。大リーグを代表する右腕の真意とは。
頑張り過ぎなくていいんです、日本の球児は。何百球の投げ込みとか、何千本の素振りとか、そんなのを頑張っちゃダメなんです。
東北高では、いわゆる強豪校の練習をみんながしていたけど、僕はしませんでした。納得がいかない練習は絶対にしたくないと強く思っていたので、ウサギ跳びとかそういう類いの練習は一切しませんでした。
小さい頃から日本人じゃないような考え方を持っていたので、みんなの常識が僕の中では常識ではなかった。誰の色にも染まらず、考えて行動する力が身についたのが、高校時代だと思っています。
日本の高校野球では、正しい知識を持たない監督やコーチが、自分の成功体験だけに基づいて無理を強いる。そういう側面があると感じます。改善されてきているのでしょうが、壊れてしまう選手、苦しむ選手は後を絶ちません。
指導者には正しい知識を身につけて欲しい。例えば休養の重要性です。筋力トレーニングは、ほぼ毎日頑張るよりも、週に3日程度は休みながら行う方が結果は上になったりするのです。いまだに冬に10日、夏に5日程度しか休まないような野球部が珍しくないでしょう。僕が監督なら週2回は休むし、全体練習も3時間で十分。そのくらいの方が成長するのです。
だから、日本の高校生は「頑張らない!」で、ちょうどいい。もちろん、頑張るところと頑張らないところを自分で見分けられるように知識を得る努力は必要ですが。指導者にはもっと頑張って欲しい。球児を取り巻く環境を変えるには、指導者が変わらないと。
「甲子園の投手にイニング制限を」
甲子園はいまもすごくいい経験として残っています。何より、普段対戦出来ないような強豪校と戦えるのがうれしかった。より強いチーム、よりいい打者と対戦したいという思いは、あの頃から持っていた。特別な場所での特別な大会である分、「ちょっと痛いくらいなら」と無理をして投げてしまうこともあった。
安楽君の「772球」は、アメリカでも報道され、議論になりました。ツイッターでも発言しましたが、僕は投手のけがを防ぐため、1年生なら5回、2年生は6回、3年生は7回と、学年別に投球可能なイニングに制限を設け、ベンチ入り人数を増やすべきだと考えます。
200球も投げることが高校生の体にいいわけがない。タイブレークも悪くありませんが、僕がベストだと思うのはあくまでイニング制限です。日本高校野球連盟がルールとして決めるべきです。ルールなら従うしかないので、分かりやすい。
きっと甲子園の大会は大きくなりすぎてしまったんでしょうね。だから、その場に立つと高校生は無理をしてしまう。いっそ甲子園での大会をなくすのはどうですか。1年に何度も行われる小規模な大会にすれば、選手が無理をすることはないでしょう。
でも、それは絶対にダメ。球児がそこを目指して一生懸命、頑張るところに美しさやドラマがあって、ファンが感動する。大会をなくしていいとは思わないけど、変えていかなければいけないこともある。けがのリスクを抑えた、もっといい大会にしていくことは出来るはずです。
なぜこのインタビューを受けたか、ですか。僕は意味がないと思うものは受けませんが、このインタビューに答えることは、色々な人にとって意味を持ってくれるのではないか、と。自分の価値観で、すごくそう感じたからです。(構成・竹田竜世)