りゅうちぇるも共感 「いじめ」という地獄 1000人の痛みに耳を傾ける大学生 - 沖縄タイムズ(2018年1月31日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/202813
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◆青葉のキセキ−次代を歩む人たちへ−(10)第2部 傷を抱えて 優楓 寄り添う心(上)
「沖縄の大人に言いたいこと」
「沖縄に住む大人たちに聞いてほしいことがあります」−。こんな一文で始まるブログが昨年11月、インターネット上に現れた。
筆者は石垣島出身で「ゆか」と名乗る19歳。「すごくすごく大好きな地元だけど、私はずっとこの島で違和感を抱いて過ごしていました」。いじめやリストカット、貧困、親の暴力。同世代を取り巻く環境を明かし「なんで気づかないの??と苦しくて大人たちへの怒りでいっぱいで叫びたくなった」とつづる。
「どれだけ沖縄の海が美しくても、そこに住む子どもの心や体は対照的に荒んで助けを求めています」
記事は瞬く間に拡散。ブログ開設わずか1週間で6万アクセスを超えた。県出身タレントのりゅうちぇる(22)も「僕も立ち上がらないと」と共感を寄せ、石垣市議会では市に筆者と会うよう迫る意見も出た。
「心をえぐられるような作業」
ブログを開設したのは慶応大1年の島尻優楓(ゆか)(19)。昨年春に生まれ育った石垣島から上京したばかりだ。
「ナイフで切られ、トイレットペーパーを口に入れられた」「○○菌って呼ばれた」。優楓のスマートフォンには、10代のいじめ被害者からの長文が絶えず届く。顔見知りもいればネットでつながった人もいる。
「言いづらいことを話してくれてありがとう」「気持ちよく分かります」「相談できる人はいた?」。画面上の無機質な文字の行間ににじむ心の機微に神経を集中させ、一人一人に具体的な経緯を尋ねていく。
「心をえぐられるような作業」と優楓は表現する。自身もまた小中学校時代にいじめを受けた。他人であっても細部を聞くのは、自ら心の傷のかさぶたをはがすのと同じ。「苦しいですよ。追い込まれて自殺する夢もめっちゃ見る」。一時は大学の保健室で寝込む日々が続き、カウンセリングも受けた。
それでも「気持ちが分かる当事者こそ立ち上がらないといけない」と自分を奮い立たせる。目指すのは、10代がいつ、どこにいてもいじめの悩みを相談でき、心のよりどころにできるアプリの開発だ。
志を共有するのは読谷高1年の佐久間かざり(15)。いじめで同世代が自殺したニュースを見て、何度も心を痛めた。一人でも多くの経験をアプリに反映したいと、2人は1年間で県内外千人以上のいじめ被害者の話に耳を傾け、寄り添ってきた。
優楓は誓う。
「私自身つらかったし、友達も助けられなかった。せめて現状を変えていける大人になりたい」
「もしかしていじめられてる?」
 学級委員長を任されるような優等生で、そこそこスポーツもできる読書好きな少女だった。「当時のことはよく思い出せないし、思い出したくない。包丁で心をぐさぐさ刺し続ける感じになる」。いじめられた記憶が今も、島尻優楓(19)の心を縛る。
最初に「もしかしていじめられてる?」と感じたのは小学校4、5年生のころだ。ある日突然、何をするにも一緒だったグループの数人に無視された。さらにクラスメートの前でばかにされ、わざとぶつかられ、プリントをしわくちゃにされた。教師に見えないよう毎日繰り返される「ちょっとした嫌がらせ」。殴る蹴るではなく、心への暴力だった。両親を悲しませたくないと、家では普段通り振る舞った。
「彼女たちは嫌がらせしながら、楽しそうに笑ってた。今もその顔は忘れられない」。いつしか誰かがこそこそ笑い合うのを見るだけで、悪口を言われていると感じるようになった。
小6の夏。小1から大切に扱ってきた読書カードが何者かにぐちゃぐちゃにされる事件があった。さまざまな世界に出会える読書が好きで、毎年「多読賞」を取るのが自慢だった優楓には「何よりつらい思い出」。次第に人と関わることが怖くなった。「私の何が悪かったのか。いじめられる理由を考えても分からなくて苦しかった」
「何があっても味方だから」
 中学校に入学し、一時はやんだいじめ。だが、1年の夏に再び始まった。
通りすがりに「死ね」などと暴言を吐かれ、学年中に根も葉もないうわさを流された。「正直もう思い出せない。記憶の中から消えちゃった」。学校に居場所がなければ生きる意味がないように思え、どうしたら楽に死ねるか、シミュレーションもした。「当時を思い出すと、憎しみや悲しみでぐちゃぐちゃになる」
学校側の対応で、優楓の心は一層ささくれ立つ。いじめを相談した教師には「証拠がない」と取り合ってもらえなかった。
耐えられなくなって両親に打ち明けた。「どんなことがあっても優楓の味方だから」。その言葉が支えになった。「私が死んだって、いじめた子たちは罪悪感なんて持たない。悔しくて、今は何もできないけどとりあえず耐えるって思えた」。いじめの原因が分からないまま、自分を責め続けてきた優楓にとって「あなたは悪くないよ」と言ってくれる存在は大きかった。その体験が、いじめ相談のアプリ開発を思い付いた原点だ。
「いじめの証拠がないと言われるなら、記録するしかない」。自分を守る苦肉の策として、制服にICレコーダーを忍ばせ、学校に通うようになった。=敬称略(社会部・篠原知恵)

 <優楓 寄り添う心(中)に続く>

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「青葉のキセキ−次代を歩む人たちへ第2部」は、いじめや偏見に向き合う若者たちを紹介する。