続く米軍資金「経済的徴兵」 軍学共同の道(6) - 京都新聞(2017年12月21日)

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米国ワシントンで2013年に開かれた無人兵器などを集めた展示会

零下20度の塩水に中指を浸し、被験者の皮膚温と指の容積がどう変化するか実験したグラフ。横軸は25分まで刻まれている。皮膚温は零度以下に低下。旧満州にあった関東軍防疫給水部、通称「731部隊」の凍傷研究。
「滅私奉公の誠を尽くしたことは確か」。731部隊に所属し凍傷研究した日々を振り返り、京都府立医科大学長だった吉村寿人教授(1907〜1990年)は戦後、こう書いている。
<私の属した部隊は細菌戦のことを研究していたのであるが、私は生理学者であった為に別の研究をやっていた>
<個人の良心によって行動出来るような軍隊が何処にあるだろうか。(中略)軍属は武官の命令には絶対服従を強いられていた。(中略)決して良心を失った悪魔になった訳ではない>
戦後、完全に沈黙を守った多くの731部隊出身の医学者。弁明を公表したのはまれともいえる。京都帝国大医学部で血液測定のアルカリ誤差といった生物物理化学を研究していた道を断たれ、恩師の命令で731部隊へ派遣されたことがどれほど嫌だったか。「全く地獄のように思われ、部隊に居ること自体が苦痛でたまらなかった」と書いている。
1967年に府立医大学長だった吉村教授が米軍から受けとった研究援助費の額は、年2千ドル以上とみられる。同僚の助教授への米軍資金について「私へのGrantよりも2〜3倍多い$6000」とし、当時の大学での講座当たりの年研究費1400ドルをはるかに上回るものだった、と回顧録にある。
京都府から、米軍資金はだめだとして返却するよう求められ、「無念の涙をのんだ」。「平和的なテーマ」。この書きぶりからは、軍事研究と科学を巡る倫理的な悩みは伝わってこない。研究費が乏しい中、時勢に抵抗できない嘆きのみがにじむ。文部省側資料によると、米軍資金を受けた研究テーマは「スポーツによる赤血球破壊」(66年に約4500ドル)。
67年5月19日の参院予算委員会で、米陸軍極東研究開発局から日本の大学への補助が問題になった。96件のうち82件まで生物・医学関係だった。米軍は、枯れ葉剤散布などもあったベトナム戦争のさなか。リストを提出した国側は「向こうの陸軍の関係の部局からこの金が出た。何かに利用されるのじゃないかというような疑いを受けるおそれが十分にある」と答弁している。
議員たちは京大の奥田東総長(当時)の「やはり軍事を目的としておる寄付は受けるべきではない」との新聞談話を紹介し、「米国陸軍だけでなく、どこの国の陸軍であろうが海軍であろうが、日本の学者に研究を依頼すれば、学者がOKすればできる、こういうことですか」と詰め寄っている。外相だった三木武夫は「政府に報告、承認を求めるなど、何らかの規制が私は要ると思う」と答弁している。
日本物理学会も米軍資金提供先リストにあり、物理学会は米軍への協力をやめた。
今も続く米軍からの資金提供。
軍学共同に反対する池内了名古屋大名誉教授(宇宙物理学)は「米軍の資金は自由度が高く、防衛装備庁の公募研究よりも手続きが簡単。緩い条件で使い勝手がよい利点があり、飛びつきやすい。『研究者版の経済的徴兵制』だ」と憂う。

◇吉村教授による生後3日の乳児に対する凍傷実験論文はJapanese journalofphysiology1951年所収。731部隊の陸軍技師として1941年10月26日に講演した記録「凍傷ニ就テ」はアジア歴史資料センターのホームページで閲覧できる。

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