(筆洗)大阪大学の昨年入試での採点ミス - 東京新聞(2018年1月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018010902000098.html
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脚本家の向田邦子さんが高等女学校の編入試験を受ける日の朝、向田さんのお父さんが見た夢が切実である。
なんでも向田さん、盲腸の手術の直後で、体操の試験を免除してもらえるように頼んでいたが、お父さんはよほど心配していたか。夢の中で娘は試験免除にならず、「走ってみなさい」といわれている。お父さんは飛び出し「この子は病み上がりだから、代わりに走らせてもらいたい」。試験を受ける女子学生にまじって走るが、足がなかなか前に進まない。
このお父さんといえば厳しい人という印象があるが、どんな親も子どもの受験や試験となれば、気をもみ、祈るものだろう。「人生でいちばん応援してもらえるのは、受験の時かもしれない」。どこかの進学塾の広告だが、うなずける。
応援どころか、正しい採点さえしてもらえなかったということか。大阪大学の昨年入試での採点ミスである。本来なら合格し、落胆する必要のなかった三十人の受験生がいる。
大学が正解と認めた解答例に対しては昨年六月以降、間違いではという指摘が寄せられていたが、なかなか取り合わず、対応が遅れた。
「大切なのは疑問を持ち続けることだ」。アインシュタインの言葉だが、自分が正しいと疑わぬ大学の姿勢が問題を大きくした。合格を新たに認めたとはいえ、受験生の大切な一年を傷つけた。その家族の一年もである。