(余録)若く貧しい夫婦はクリスマスに互いに何を贈るか思案する… - 毎日新聞(2017年12月25日)

https://mainichi.jp/articles/20171225/ddm/001/070/142000c
http://archive.is/2017.12.25-001546/https://mainichi.jp/articles/20171225/ddm/001/070/142000c

若く貧しい夫婦はクリスマスに互いに何を贈るか思案する。目抜き通りのきらびやかなショーウインドーで妻がきれいなくしを見ていたことを思い出した夫。自分の大事な時計を売ったお金でくしを買う。妻は美しい髪を売り、夫の時計につける鎖を買う。
O・ヘンリーの短編小説「賢者の贈りもの」は胸に染みるクリスマスの物語である。今ごろ、同じようにプレゼントを交換する家族やカップルが無数にいるはずだ。
つらく悲しいクリスマスになってしまった家族もいる。2年前、電通社員の高橋まつりさん(当時24歳)が過労自殺した。イルミネーションがきらめく街をまつりさんの母幸美さんは警察へ向かう。「うそであってほしい」と願いながら。だがこの日が娘の命日になった。
過労死・過労自殺は重大な社会問題となる。この秋、電通労働基準法違反で有罪判決を受けた。行政機関は違法残業を積極的に摘発し、企業も「働き方改革」を進めている。まつりさんが社会を大きく動かしたことは間違いない。
師走の夜、都心のオフィス街を歩く。ビルを見上げると、今も遅くまで窓の明かりがともっている。窓の中で人影が動く。向かいのビルでも。
まつりさんは生前、幸美さんに「会社の深夜の仕事が東京の夜景をつくっている」と話していたという。会社の明かりが早く消え、家々の明かりとイルミネーションで東京の夜景をつくる時がいつか来るのだろうか。「賢者の贈りもの」のような、ささやかな幸せが奪われないように。