西山さん再審へ 「自白」経緯を検証せよ - 東京新聞(2017年12月21日)

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そもそも事件性のない自然死ではなかったのか。大阪高裁が投げかけた確定判決への疑問は、あまりにも重い。ならば、なぜ自白したのか。一日も早く裁判をやり直し、“自白”の経緯を検証せよ。
滋賀県東近江市の病院で二〇〇三年五月、植物状態だった七十二歳の男性患者が死亡。看護助手だった西山美香さん(37)が翌年七月になって「人工呼吸器のチューブを外して殺害した」と自白し、殺人罪で懲役十二年が確定した、という事件である。西山さんは公判では否認に転じ、有罪確定後も冤罪(えんざい)を訴えていた。
目撃者はなく、確定判決では、急性の低酸素状態を死因と判定した司法解剖鑑定書が自白を裏付ける証拠とされた。
阪高裁は今回、医師の意見書を新証拠として死因を再検討。呼吸器が外れたことによる低酸素状態と断定することに合理的な疑いが生じ、致死性不整脈、つまり自然死であった可能性が出てきたとして再審開始を決定した。
自然死であるなら、なぜ、殺害を自白したのか。
滋賀県警は当初、当直の看護師が人工呼吸器の異常を知らせるアラームを聞き落とし、結果として患者を窒息死させた、との見立てで捜査を進めていた。
ところが、アラームを聞いたと証言する関係者は現れなかった。
弁護側によると、執ような追及が続く中、西山さんは「アラームを聞いた」と供述してしまう。その結果、同僚看護師が窮地に陥ったことを知り、自分がチューブを外したという“自白”に至る。犯行の動機は、看護助手の待遇に不満があったため、とされた。
西山さんは後に、精神科医による発達・知能検査で軽度知的障害と発達障害の傾向が判明する。つまり、防御する力が弱い「供述弱者」だったのである。大阪高裁も今回の決定で「警察官、検察官の誘導があり、それに迎合して供述した」可能性を指摘している。
虚偽供述を誘導し、自然死を殺人事件に仕立ててしまったのか。
供述弱者が虚偽自白に追い込まれやすいことは、死刑判決の誤りが判明し、一九八九年に再審無罪となった島田事件などで何度も指摘されてきたはずだ。自白偏重の捜査、裁判で冤罪を繰り返すことがあってはならぬ。
無理な捜査で虚偽自白に追い込み、検察も裁判所も見抜けなかった疑いが強まった。速やかに再審を始め、不可解な“自白”の経緯を検証する必要がある。