https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171006-00000110-mai-bus_all&pos=3
http://archive.is/2017.10.07-004557/https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171006-00000110-mai-bus_all&pos=3
電通に罰金50万円の有罪を言い渡した6日の東京簡裁判決は、日本を代表する大企業の労務管理に警鐘を鳴らす内容となった。従業員の命や健康に関心を払わない企業に対する司法の目は厳しさを増している。衆院解散で「働き方改革」関連法案の国会提出は見送られたが、企業にとって長時間労働の是正は待ったなしの状況だ。
「違法残業の態様は軽視できるものではない」「具体的対応は部長らに任され、サービス残業も横行する状態だった」。判決には社の体質に厳しい言葉が並んだ。
9月の初公判。当初は書面審理だけの略式裁判を請求した検察側が違法残業の実態を詳述した。それによると、2014年度に違法残業をした社員は月約1400人に上り、会社が労使協定を順守するよう指示を出した15年4月以降も月100人以上を数えた。
こうした状況に、電通が取った対策は、月50時間以内とする協定の法定外労働時間を最大100時間に緩和することだった。検察は「労働環境の改善とは逆行する小手先だけの対応」と指摘し、判決も「もっぱら社の利益を目的として行われた対応」と批判した。
厚生労働省によると、16年の自殺者は2万1897人で、このうち勤務が一因となったケースは約1割に相当する1978人。夫を過労自殺で亡くした「全国過労死を考える家族の会」代表、寺西笑子さん(68)は「判決は『過労自殺を出したら大変なことになる。重大な問題なんだ』というメッセージを他の企業に発した」と受け止める。
あるベテラン裁判官は「裁判官はあくまで個々の事件で判断するが、略式か正式裁判かの選択を含め、社会的反響が大きかった電通公判は今後のモデルケースの一つになるだろう」とみている。
簡裁は今回、検察の求刑通り罰金50万円とした。労基法上、違法残業の罰則は1事件で「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」だ。電通事件では、社員4人の違法残業が問われたため、罰金なら4人分の120万円まで命じることも可能だった。判決は「同程度の違法が認められた他の事件との均衡を勘案した」と説明しており、労働局が摘発した同種事件などとのバランスにも配慮したことをうかがわせた。
過労死問題に取り組む遺族や弁護士の中には「そもそも労基法の罰則が軽すぎる」として、厳罰化による抑止を望む声もある。これに対し、検察幹部の一人は「確かに電通に50万円はそれほどのダメージではないだろうが、判例からすると今回の判決は妥当。罰金額の引き上げなどについては、社会全体で議論すべきだ」と話す。【石山絵歩、平塚雄太】◇対策、業界間で温度差
電通の事件などを受け、企業は長時間労働を是正する取り組みを進めている。ただ、企業によって温度差もあるのが実情だ。
「長時間労働にはペナルティーを導入し、会社としての本気度を示した」。経団連など経済4団体と連合が9月下旬、東京都内で開いた働き方改革のシンポジウム。事例発表に立った大和ハウス工業の人事担当者は力を込めた。
同社は2015年9月から、社内の基準に基づき、労働時間が長い支社などを「ブラック」と認定。本社の是正指導に従わない場合はペナルティーとして社員の賞与を減らす。担当者は「賞与減額が目的ではない。1人当たりの年間の所定外労働時間は12年度に449時間だったが、16年度は365時間に減った」と効果を強調した。
損害保険ジャパン日本興亜も、ITを使って自宅などで働く「テレワーク」や、勤務時間を柔軟に変える「シフト勤務」を進めている。担当者は「これまでは会社に長くいることが評価されてきたのは否めない。それでは多様な人材が活躍できない」と説明。改革の結果、7割の社員が「生産性が向上した」と回答したという。
経団連など全国110の経済団体は、シンポジウムに合わせて「長時間労働につながる商慣行の是正に向けた共同宣言」も行った。背景には、産業界全体で取り組まなければ長時間労働はなくならないという危機感がある。例えば、中小企業が金曜夜に大企業から発注を受け、月曜朝の納品を求められるなど、取引先の意向で長時間労働を強いられているケースも少なくないからだ。
宣言はこうしたケースを想定し、「取引先の休日・深夜労働につながる不要不急の発注は控える」など6項目を定めた。
だが、宣言には全国建設業協会、日本チェーンストア協会など59の業界団体が加わったものの、参加は全業界団体(109団体)の約半数にとどまった。「業界全体の合意が得られない」として賛同しなかった団体もある。長時間労働の是正に積極的な企業と、そうでない企業の間の温度差はなお大きい。【川口雅浩】