労基法の改正 懸念と疑問がつきない - 朝日新聞(2017年7月16日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13039377.html
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一定年収以上の専門職を労働時間の規制から外し、残業や深夜・休日労働をしても会社が割増賃金を払わない制度の創設が現実味を帯びてきた。
制度を盛り込んだ政府の労働基準法改正案に反対してきた連合が容認姿勢に転じ、神津里季生会長が安倍首相と会って一部修正を要望した。首相も受け入れる意向で、改正案を修正し、秋の臨時国会で成立を目指す。
だが、残業代の負担という経営側にとっての歯止めをなくせば、長時間労働を助長しかねない。そう連合自身が指摘してきた問題点は残ったままだ。方針転換は傘下の労働組合にも寝耳に水で、あまりに唐突だった。修正の内容、検討過程の両面で、懸念と疑問がつきない。
連合の修正案は、今は健康確保措置の選択肢の一つである「年104日以上の休日取得」を義務付ける。さらに、労働時間の上限設定▽終業から始業まで一定の休息を確保する「勤務間インターバル制度」▽2週間連続の休日取得▽年1回の定期健康診断とは別の臨時の健康診断、の四つからいずれかの措置を講じるというものだ。
だが、この内容では不十分だ。過労死で家族を失った人たちや連合内からも批判と失望の声があがっている。
年104日は祝日を除いた週休2日制に過ぎない。しかも4週で4日休めばよいルールなので、8週で最初と最後に4日ずつ休めば48日連続の勤務も可能だ。働く時間の制限もない。
また四つの選択肢には、臨時の健康診断のような経営側が選びやすい案がわざわざ盛り込まれた。これで労働時間の上限設定や勤務間インターバル制度の普及が進むだろうか。
労働団体にとって極めて重要な意思決定であるにもかかわらず、連合は傘下の労働組合や関係者を巻き込んだ議論の積み上げを欠いたまま、幹部が主導して方針を転換した。労働組合の中央組織、労働者の代表として存在が問われかねない。
この規制緩和は経済界の要望を受けて第1次安倍政権で議論されたが、懸念の声が多く頓挫した。第2次政権になり2年前に法案が国会に提出されたが、これまで一度も審議されず、政府の働き方改革実現会議でもほとんど議論されていない。
臨時国会では同一労働同一賃金や残業時間の上限規制が柱の「働き方改革」がテーマになるが、これに紛れ込ませて、なし崩しに進めてよい話ではない。
働く人の権利と暮らしを守る労働基準法の原点に立ち返った検討を求める。