稲田氏「自衛隊としてお願い」 自覚の乏しさにあきれる - 毎日新聞(2017年6月29日)

https://mainichi.jp/articles/20170629/ddm/005/070/038000c
http://archive.is/2017.06.29-013433/https://mainichi.jp/articles/20170629/ddm/005/070/038000c

防衛相としての立場を自覚しているとは思えない。
稲田朋美防衛相が東京都議選自民党候補の応援集会で「防衛省自衛隊防衛大臣自民党としてもお願いをしたい」と演説で述べた。
自衛隊を率いる防衛相が組織ぐるみで特定候補を支援するかのような発言である。
行政の中立性をゆがめ、自衛隊の政治利用が疑われる不適切な内容だ。後に撤回したが、それで済む問題ではない。
自衛隊は約23万人を擁する実力組織である。国防や災害派遣は国民から負託された任務であり、憲法の規定に準拠して、自衛隊員は「国民全体の奉仕者」とされる。
だからこそ自衛隊法61条は国民の信頼が確保できるよう、自衛隊員の政治的行為を、選挙権の行使を除いて制限しているのだ。
稲田氏は法律を扱う弁護士でもある。しかし、自衛隊を統括する閣僚として、こうした自明の法的規範を理解していると言えるだろうか。
「防衛相」という地位を明確にして「自衛隊としてお願いしたい」と支援を求めれば、自衛隊の政治利用だと指摘されるのは当然だろう。
稲田氏の発言は、公務員の地位を利用した選挙運動を禁止する公職選挙法136条の2に抵触するおそれもある。公務員には特別職の国家公務員である閣僚も含まれる。
自衛隊は命令系統が明確だ。その責任者が自衛隊法に抵触する政治的行為を促すようなことは厳に慎むべきだ。自衛隊の信用も傷つける。
稲田氏にはこれまでも問題視される言動があった。自衛隊が派遣された南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)を巡って「武力衝突はあったが、法的な意味での戦闘行為ではない」と強弁し、批判された。
学校法人「森友学園」の弁護士活動では国会答弁で否定しながら後に撤回した。それでも「虚偽の答弁をした認識はない」と釈明し続けた。
稲田氏は今回の発言を「誤解を招きかねない」と撤回したが、自発的ではなく菅義偉官房長官に促された結果だったという。
こうした稲田氏を安倍晋三首相は一貫して擁護してきた。その姿勢が、無責任な閣僚の発言がとまらない要因になっているのではないか。