衆院区割り見直し案を勧告 一票の格差、1.999倍に - 朝日新聞(2017年4月19日)

http://www.asahi.com/articles/ASK4L6665K4LUTFK014.html
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政府の衆院議員選挙区画定審議会(区割り審=会長・小早川光郎・成蹊大法科大学院教授)は19日、衆院小選挙区の新しい区割り案をまとめ、安倍晋三首相に勧告した。「一票の格差」を2倍未満に是正するため、「0増6減」に伴い1選挙区ずつ減る6県の全27選挙区を含む過去最大の19都道府県97選挙区で線引きを見直した。2020年時点の見込み人口を基にした最大格差は1・999倍となった。
勧告を受けた安倍首相は「勧告に基づき速やかに必要な法制上の措置を講じる」と述べた。政府は5月に関連法案を通常国会に提出。6月18日までの会期内に成立する見込み。新たな区割りには周知期間が必要で、関連法は成立から約1カ月後に施行される。新制度に基づく衆院選が可能になるのは今夏以降になる見通しだ。
一票の格差をめぐり最高裁は、直近3回の衆院選に対していずれも「違憲状態」と判断。是正を迫られた国会は昨年5月、小選挙区を「0増6減」、比例区を「0増4減」する衆院選挙制度改革法を成立させ、区割り審が同法に基づいて見直し作業を進めていた。
衆院の定数は現行の475から465(小選挙区289、比例区176)に。青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島の6県で小選挙区が1ずつ減り、比例区は東北、北関東、近畿、九州の4ブロックで1ずつ減る。6県の小選挙区では計27選挙区で線引きが変わった。
さらに2020年まで見越して格差が2倍未満に収まるように調整。15年の国勢調査をもとに20年の見込み人口を計算し、人口が最も少ない鳥取県で最少選挙区の鳥取1区(推定27万7569人)を基準とした。
その結果、鳥取1区と比べて人口が2倍以上、あるいは鳥取1区よりも人口が少なくなる選挙区など、見直し対象は13都道府県の70選挙区に上った。一つの自治体が複数の選挙区に分割される市区町は88から105に増えた。複雑な線引きで、選挙事務を担う自治体の開票作業も繁雑になりそうだ。
新区割りに基づく15年時点での最大格差は鳥取2区と神奈川16区で1・956倍。しかし20年時点の最大格差は鳥取1区と東京22区で1・999倍に広がる。現行のまま放置すれば宮城5区と東京1区で2・552倍まで格差が拡大するところを抑えたものの、2倍に迫る数字だ。
また、都道府県ごとの定数を人口比で割り振る「アダムズ方式」が20年の国勢調査から全面的に導入されるため、22年ごろの次回勧告は再び大改正となる。(久永隆一、竹下由佳)


■一票の価値が軽い選挙区

(2020年の見込み人口にもとづく)

東京22区 1.999

東京1区 1.998

東京3区 1.997

愛知7区 1.996

東京11区 1.996

東京9区 1.995

神奈川10区 1.994

東京4区 1.994

宮城2区 1.993

東京8区 1.993

鳥取1区を1とする)

     ◇

今回の見直しの特徴は、都道府県内の区割りを、人口減少や都市部への人口集中が進む数年先まで見据えて調整した点だ。それでも一票の格差は辛うじて2倍未満にとどまる内容。前回2013年の勧告で、10年国勢調査を基に1・998倍を実現しながら翌14年衆院選であえなく2倍を超え、3回連続の「違憲状態」を宣告された同じ轍(てつ)を踏む可能性は拭えない。
自民、公明両党が主導して昨年5月に成立した衆院選挙制度改革法は、人口比で定数を増減させる「アダムズ方式」の完全導入を20年調査に先送りした。自民党に現職議員が多く、影響をできるだけ少なくしたいという「党利党略」の結果、都道府県間の定数配分について抜本改革をしないままの区割り変更となった。
定数を増やさずに区割りだけを調整した東京では、複数の選挙区に分割される自治体が5から17に急増。総務省幹部は「壮大なパズルを組み合わせる職人芸だった」と漏らす。
5年後には、アダムズ方式に沿い、再び区割りが大幅に変わることになる。2段構えの大改革が有権者を混乱させるのは明白だ。開票業務を担う自治体の負担も重い。政治の怠慢が有権者にツケを回していることを、改めて自覚すべきだ。