どうなるトリチウム処分 国の判断、説明注視 - 福島民報(2017年3月6日)

http://www.minpo.jp/news/detail/2017030639546
http://megalodon.jp/2017-0306-0917-21/www.minpo.jp/news/detail/2017030639546

晴れ渡った2月25日、浪江町の請戸漁港に色とりどりの大漁旗をなびかせた漁船が次々と帰還した。東日本大震災東京電力福島第一原発事故以来、6年ぶりの光景に、岸壁でこの日を待ちわびた関係者から歓喜の声が上がった。
県漁協組合長会議が福島第一原発から半径10〜20キロ圏内の海域で試験操業の実施を決めたのを受け、相馬双葉漁協は近くコウナゴ漁を始める。県内漁業は再生への歩みを着実に進めているが、漁業者らは楽観していない。風評に影響する可能性のある「懸案」が横たわっている。
福島第一原発には汚染水を浄化処理した水約95万トンが保管されており、年間約15万トンずつ増えている。このうち約75万トンは多核種除去設備(ALPS)で処理済みだが、水素と同じ性質を持つトリチウムは取り除けない。トリチウム水の処分方法を巡り漁業者が懸念しているのが「海洋放出」だ。
しかし、議論は深まっていない。政府は昨年9月、海洋放出に加えて地層への注入、大気への放出など計5つの処分方法から1つに絞り込むために小委員会を設置したが、委員からは「どの処分方法を選んでも風評につながる恐れがある」などと慎重論が続出した。所管する経済産業相世耕弘成福島民報社のインタビューで「取りまとめ時期を含めたスケジュールは決めていない」と拙速な結論付けを避ける考えを示した。
トリチウム原発を通常運転した場合も発生する。薄めるなどして一定基準を下回れば世界的に放出が認められており、日本は1リットル当たり6万ベクレル未満が法令基準となっている。
原子力規制委員長の田中俊一(福島市出身)は福島第一原発で発生したトリチウム水の処理について「海洋放出以外の解決策はない」との見方を示し、基準を下回ればトリチウム水を海洋放出すべきとの立場を取る。国際機関の関係者からも同様の意見が相次ぐ。
しかし、県漁連は、海に放出すれば県産魚介類に対する風評をさらに招く恐れがあるとして認めない姿勢を堅持している。いわき市小名浜の漁師の一人は「消費者の県産魚介類への信頼を一気に失い、漁業者が積み上げてきた努力が無駄になりかねない」と語気を強める。
一方で処分方法が決まらなければ福島第一原発の汚染水は増え続け、廃炉計画が遅れる可能性もある。東電は「政府の議論を見極め、地元の意見を十分に聞いた上で(東電が)責任を持って決める」としている。
漁業再生とトリチウム水処理という課題にどう対応するのか。処分方法の決断を東電任せにせず、国内外の人が理解できる手法と丁寧な説明を−。漁業者は国の対応を注視している。(敬称略)