教育と憲法改正 無償化論に便乗は疑問 - 毎日新聞(2017年2月20日)

http://mainichi.jp/articles/20170220/ddm/005/070/033000c
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憲法改正のテーマに教育の無償化を据えようとする動きが起きている。自民党改憲項目の絞り込みに向けて民進党に示した8項目の論点にも盛り込まれた。
教育を受ける機会の拡充は、与野党が立法などで着実に推進すべき課題だ。無償化論議の高まりに便乗するかのように、改憲論に結びつけることには疑問がある。
憲法26条は「すべて国民はその能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」とし、義務教育を無償と定める。この規定に沿い、小中学校9年間の課程で国公立学校は授業料を取っていない。
この条文を改正して高校、大学なども含めた「教育無償化」に広げる議論が浮上している。もともとは日本維新の会が主張していた。これに自民党が同調し、衆院憲法審査会で取り上げるよう求めている。
安倍晋三首相は施政方針演説で日本国憲法施行70年に関連して「誰もが希望すれば高校、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければならない」と訴えた。改憲の優先テーマとすることに強い意欲をにじませた発言だろう。
「子どもの貧困」の深刻化が指摘される中、教育の機会均等は与野党共通で対策を急ぐべき課題だ。民進党も無償化の拡大を次期衆院選の重点公約に掲げる方針だ。
教育の機会を広げる議論を重ね、どうしても憲法改正が必要だというのであれば、論点として位置づけることは理解できる。
だが、いまの動きはそうした積み上げを経たものではない。改憲項目の候補が決め手を欠く中、維新と連携し、公明党などにも同調を求めやすいテーマだとみて飛びついたのが実態ではないか。
そもそも自民党改憲草案は、私学助成などを念頭に「教育環境の整備」を求め、無償化には直接ふれていない。現在の憲法の規定は、義務教育無償化について国の責務を定めたものだ。立法で無償化の範囲を広げることを禁止した文言はない。
教育の機会拡充をめぐる課題は多い。無償化には5兆円の財源を要するとの指摘もある。政府は大学生に給付型の奨学金制度を創設したが、対象は1学年あたり2万人程度にとどまる見通しだ。
こうした課題に本気で取り組むのであれば、財源確保策や無償化の優先順位をめぐる与野党の建設的な議論が欠かせない。改憲をめぐる対立を持ち込むようでは本末転倒だ。
首相はかつて、改憲手続きを定める憲法96条の改正を図ろうとしたが、不発に終わった経緯がある。改憲ありきでテーマ選びを急ぐ二の舞いを演じてはならない。