(余録)哲学者・ニーチェの妹エリーザベトの伝記に… - 毎日新聞(2017年2月1日)

http://mainichi.jp/articles/20170201/ddm/001/070/134000c
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哲学者・ニーチェの妹エリーザベトの伝記に、彼女が夫と南米パラグアイに作り出した「新ゲルマニア」というドイツ人入植地の話がある。反ユダヤ主義の運動家だった夫はユダヤ人のいない土地に純血ゲルマン人の国の建設を夢見たのだ。
ちなみにニーチェその人は人種混血の礼賛者で、この企てに反対したという。ナチスの台頭の数十年前のことだが、後にドイツに帰国した妹はヒトラーらとも親交を結んだ。英国人の伝記作家は1991年に、ドイツ人たちが入植したパラグアイの奥地を訪れている。
その末裔(まつえい)は多くが生気のない老人だった。近親婚で病気が多く、金髪碧眼(へきがん)だけが際立つ純血主義の末路をうかがわせた。現地の医師は「彼こそが未来だ」と青い目と褐色の肌の健康そうな混血青年を指さした(B・マッキンタイアー著「エリーザベト・ニーチェ」)
「私の祖先はドイツ、オーストリアポーランドの移民だ。妻の両親は中国とベトナムからの亡命者だ。米国が移民国家であることを誇るべきだ」(フェイスブックCEO、ザッカーバーグ氏)。トランプ政権の入国禁止令に米企業からの反発や批判が相次いでいる。
外国人や移民が多く働くIT企業はもちろん、トランプ氏に近いフォードも「わが社は豊かな多様性を誇りにする」と大統領令を批判した。個人や集団の多様性こそが新たな価値や競争力の源泉となった現代だ。米国企業には生き残りにかかわる排外政策の今後である。
思えば、アップル創始者ジョブズ氏も実父は入国禁止国となったシリアの移民だった。「未来」のありかを見間違ってはならないトランプ政権である。