共同通信が全国の新聞に配信した医薬品の記事が「買われて」いた――。 - セダクロニクル(2017年2月1日)

http://www.wasedachronicle.org/articles/buying-articles/1/

シリーズ「買われた記事」01 電通グループからの「成功報酬」

あなたの命にかかわる医薬品の新聞記事が、カネで買われた記事だったとしたらどうしますか?

それが実際に起きていた、しかも何年も前からーー。

私たちがそんな疑いを持ったのは2016年の3月のことだった。

脳梗塞(こうそく)の予防に使う「抗凝固薬(こう・ぎょうこやく)」の記事をめぐり55万円のカネが動いていたことを示す資料を入手したのが始まりだった。資料を見ると、カネを払っていたのは、製薬会社の仕事を請け負った最大手の広告代理店、電通のグループ会社。カネをもらっていたのは、全国の地方紙に記事を配信する共同通信のグループ会社だ。

抗凝固薬は血を固まりにくくする薬だ。効果が高い半面、患者によっては脳内で出血する。因果関係は不明なものの、現場の医師らから数百件の死亡事例が公的機関に報告されている。製薬会社自身も「重篤な出血の場合には死亡にいたるおそれがある」と警告している。

共同通信が配信した記事は地方紙に掲載された。「広告」や「PR」などの明記はどこにもない。ごく普通の記事の体裁だった。

電通側で関わっていたのは、電通と、100%子会社の電通パブリックリレーションズ(電通PR)。

共同通信側では、記事を配信した報道機関の一般社団法人共同通信社(社団共同)と、100%子会社の株式会社共同通信社(KK共同)だ。

取材に対し、電通PRの当時の担当者はこのカネが「記事配信の成功報酬だった」と認めた。記事を書いた社団共同の編集委員も「営業案件であるとの認識はあった」と語り、記事にカネがからんでいるとの認識があったことを認めた。

抗凝固薬だけではない。内部資料や関係者の証言によると、医薬品の記事の見返りにカネが支払われるという関係は、電通側と共同通信側の間で少なくとも2005年から続いていた。私たちが入手した電通側の内部資料にその記録があった。KK共同の医療情報センター長は「うしろめたい気持ちはあった」といっている。

命にかかわる薬の記事をめぐってカネが動いていた。

記事がカネで買われていたことにならないのだろうか。

人の命をどう考えるのかーー。広告とは、PRの仕事とは何か。そして、ジャーナリズムとは。

このシリーズを通じ、患者やその家族の皆さんと一緒にこの問いを考えていきたい。