朴教授の判決 学問の自由侵した訴追 - 朝日新聞(2017年1月27日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S12767101.html?ref=editorial_backnumber
http://megalodon.jp/2017-0127-1031-26/www.asahi.com/paper/editorial2.html?iref=comtop_shasetsu_02

史実の探求に取りくむ学問の営みに公権力が介入することは厳につつしむべきである。
韓国・世宗大学教授、朴裕河(パクユハ)さんが韓国で出版した著書「帝国の慰安婦」をめぐる裁判で、ソウルの地裁は朴さんに無罪判決を言い渡した。
とかく日本との歴史認識問題に関しては、厳しい世論のまなざしに影響されがちだとの指摘もある韓国の司法だが、今回は法にのっとった妥当な判断をしたと言えるだろう。
この裁判は、「帝国の慰安婦」が元慰安婦らの名誉を傷つけたとして、検察当局が朴さんを在宅起訴したものだ。
判決は、検察が名誉毀損(きそん)にあたるとした35カ所のうち、大半が朴さんの意見を表明したにすぎないとし、他の部分についても特定の元慰安婦個人を指していないなどと指摘した。
また、朴さんが本を書いた動機は、日韓の和解を進めることにあり、元慰安婦の社会的地位をおとしめるためではなかったとして無罪判決を導いた。
著書が強調するのは、慰安婦となった女性には多様なケースがあったという事実や、植民地という構造が生み出す悲劇の数々である。
これまでの日韓の学界による研究の積み重ねにより、植民地の現実は様々な形で浮き彫りになってきた。朝鮮半島では暴力的な連行の必要すらないほど、慰安婦の募集などがシステム化されていた側面があるという。
韓国社会の一部に強く残る慰安婦のイメージと合わない部分があるからといって、歴史研究の中での見解や分析を封印しようとするのは誤りだ。まして、時の公権力が学問や表現の自由を制限することは、民主主義を放棄することに等しい。
しかし検察は昨年末、「学問や表現の自由を逸脱した」などとして懲役3年という異例の重い求刑をした。
検察は、そもそも訴追すべきではなかったことを反省し、慰安婦問題の議論の場を法廷からアカデミズムの世界に戻さねばならない。
一方、慰安婦問題をめぐる日韓両政府の合意は、ソウルの日本大使館前に続き、釜山の日本総領事館近くにも慰安婦問題を象徴する少女像が設置されたことで、存亡の危機にある。
日韓がナショナリズムをぶつけ合うのではなく、それを超えた和解が必要だというのが朴さんの一貫した主張でもある。
日韓双方にとって、対立の長期化がもたらす利益などない。両国関係を立て直し、進展させる意義を改めて考えたい。