(筆洗)福島から避難した子がいじめられていたことが明るみに出たが、 - 東京新聞(2017年1月27日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017012702000142.html
http://megalodon.jp/2017-0127-0927-22/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017012702000142.html

十六歳の少女が、自分の思いを手記に綴(つづ)ったのは、一年ほど前のことだ。
福島第一原発の事故のため、故郷の町を離れ、友だちと別れなければならなかったこと。車の中で寝泊まりしながら転々と避難しているとき、普段通りに暮らしている人々を見て思わず、「にくい」と思ってしまったこと。
岐阜の転校先では、いじめに遭った。靴に「福島に帰れ」と書いた紙を入れられたこともある。給食を配ると、「アイツがさわったから食べられない」と言われたこともある。そういうこともすべて書いた。
そうして、一度はこう踏ん切ったという。「元の福島での生活に戻れないものは戻れない。現実は現実。嫌なことがあっても事実として受け止め、逃げずにいこう」。だが、今でもやはり、「ずっと福島にいられたら」と思ってしまうそうだ。
そんな思いで踏ん張っている子が、どれだけいるだろうか。神奈川で、新潟で。福島から避難した子がいじめられていたことが明るみに出たが、その陰では、もっと多くの子どもがじっと声も上げずに耐えているのではないか。
そういう子たちに、何か言ってあげたいことはあるか? 少女に尋ねたら、こんな答えが返ってきた。「頑張れば何とかなる、なんてことは、気軽に言えません。ただ、話を聞いてあげたい。同情されるより真剣に受け止めてくれる方が、心の支えになるんです」