国際刑事裁判所 人道の砦を守らねば - 東京新聞(2017年1月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017012002000137.html
http://megalodon.jp/2017-0120-0929-17/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017012002000137.html

大量虐殺や、奴隷化、集団レイプなど人道に対する罪に問われた個人を裁く国際刑事裁判所(ICC)。最近、脱退を表明する国が相次いでいる。人道を守る拠点を弱体化させてはならない。
ICCはルワンダや旧ユーゴの紛争を受けて二〇〇二年に設立され、本部をオランダ・ハーグに置く常設の国際法廷。日本は分担金のうち16・5%を負担する最大の拠出国である。
内戦などで荒廃し裁判能力がない加盟国の要請を受けて、事件を捜査、さらに審理し判決を言い渡す。国連安全保障理事会の付託がある場合も訴追できる。
アフリカの三カ国が昨年十月、相次いで脱退表明した。発効まで一年の猶予があるが、決まれば初のケースになる。
ブルンジは反大統領派の弾圧を巡るICCの捜査に反発した。南アフリカは国家首脳の不逮捕特権を認めた国内法とは相いれないと主張する。さらにガンビアは「ICCはイラク戦争など欧米の戦争犯罪を訴追せず、アフリカばかりを標的にしている」と非難した。
現在捜査中の十件のうち九件がアフリカの事件で、これまで有罪判決が出た四件の被告もすべてアフリカ出身者だった。
外務省出身の尾崎久仁子ICC第二次長は日本記者クラブで会見し、「ほとんどがアフリカの当該国から付託された事案だ」と述べ、狙い撃ちとの批判に反論した。国家指導者や武装勢力のリーダーを裁くことがあり、被害者や証人の身の安全には最大限の神経を使うとも強調した。
国連は脱退を撤回するよう、三カ国を粘り強く説得すべきだ。人道の砦(とりで)とも言うべきICCを守り、機能を強化する必要がある。
だが、基盤は揺らいでいる。ロシアは昨年十一月、加盟しないと決めた。クリミア併合について、ICCが犯罪の疑いを調査するとの暫定報告を発表したことに反発した。
国際的な人権団体は、米国の無人機による市民を巻き込んだ爆撃こそ非人道的な戦争犯罪だと非難するが、米国はICCに未加盟であり訴追できない。アフリカや中東諸国の不満の背景には、国際法廷が発足以来抱える不平等がある。
人道は普遍的な理念だが、各国の利害や政治情勢によって左右される。困難は伴うが、国際法に従って重大犯罪を裁くというICCの責務を、国際社会が支える姿勢が何よりも重要になる。