「声掛け」判決 改めて裁判所の姿勢問う - 西日本新聞(2017年1月7日)

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/299825
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福岡地裁はきのう、裁判員に声を掛けて脅したとして裁判員法違反(威迫、請託)の罪に問われた元暴力団組員ら2人に有罪判決を下した。全国初のケースである。
事件はこれで一つの節目を迎えたが、改めて問いたいのは事実関係の公表に消極的な裁判所の姿勢だ。今回の事件を甘くみてはいないか。国民の信頼の上に成り立つ裁判員制度を揺るがすことにならないか懸念せざるを得ない。
昨年5月に福岡地裁小倉支部で起きた裁判員2人に対する同事件では裁判員が「顔は覚えとるけね」などと話し掛けられ「恐怖心を覚えた」と証言している。しかし裁判所は事実関係を説明する記者会見の開催などに応じていない。
司法は独立しているが、裁判所は司法行政の府でもある。被告はなぜ法廷で裁判員の顔を容易に覚え、帰宅のため近くのバス停にいた裁判員に声を掛けることができたのか。暴力団関連事件としての対応に問題はなかったか、説明するのが筋である。裁判員がリスクを負う可能性が今後もあるならば、国民は納得しないだろう。
情報開示だけではない。関係者によると、事件を受けて裁判所、検察、弁護士で開かれた3者協議の場では、裁判所側からその後の進行について具体的な意見の提示はなかった。大本の事件となった殺人未遂事件では、裁判所自ら裁判員除外を決めず、検察側の除外申請を待つ結果となったという。
裁判所としての反応は、事件発覚から約1カ月後に寺田逸郎最高裁長官が裁判官の全国会議で「国民(裁判員)が負担を感じずに参加できるよう万全を期したい」と言及したほか、小倉支部が「事案を重く受け止める」など簡略な談話を出しただけだ。
各地の裁判所は裁判員への付き添いなどを始めたが、詳細が不明では臨機応変の対応は難しい。
裁判員裁判は殺人など重大犯罪が対象で裁判員の負担は重い。それでも「開かれた司法」のために国民は参加している。事件から導かれる反省や教訓はないのか。裁判所自らが明らかにすべきだ。