国会会期 何のための延長なのか - 東京新聞(2016年11月29日)

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そもそも発効しない協定を承認する必要があるのか。私たちの暮らしに関わる年金の法案を、議論を打ち切って、採決を強行して成立させていいのか。一体、何のための国会延長なのだろう。
今月三十日までの臨時国会の会期が十四日間、延長されることになった。安倍晋三首相(自民党総裁)と公明党山口那津男代表がきのう会談して確認した。正式にはきょう国会で議決される。
環太平洋連携協定(TPP)の今国会承認を確実にするとともに、年金支給額を抑制する年金制度改革関連法案を成立させるためだという。
TPP承認案と関連法案は今月十日に衆院を通過した。このうち承認案は憲法の規定で、参院で議決されなくても十二月九日に自然承認となる。延長幅を十四日間としたのは、今国会中にTPPを承認して、早期発効を目指す政権の姿勢を示すためだろう。
しかし、TPPを取り巻く国際環境は激変した。
米次期大統領に就任するドナルド・トランプ氏が、来年一月二十日の就任当日にTPPを脱退することを正式に表明したためだ。
米国がTPPから脱退すれば、発効すらしない。そんな協定を承認する必要性がどこにあるのか。
安倍政権は発効すらしないTPPを承認するばかりか関連法案も成立させ、予算措置も講じるという。これでは、真の目的は各省庁による予算枠の獲得であり、TPPはそのだしに使われただけなのかと、うたぐりたくもなる。
TPP承認案と関連法案はせめて、トランプ新政権発足後まで棚上げすべきではないのか。
年金制度改革関連法案も同様になぜ成立を急ぐ必要があるのか、理解に苦しむ。
年金制度の安定には長期にわたる制度設計を要する。政権交代のたびに制度が変わる不安定さを避けるには、少なくとも野党第一党の理解を得る必要があろう。支給額を抑制するのならなおさらだ。
国会会期の延長が、与野党が胸襟を開いて議論し、知恵を絞るための時間を確保するためなら理解もするが、現実は関連法案成立のための最低限の時間を与党側が確保するのが目的だろう。
会期延長に限らず、安倍政権はこのところ採決強行など数の力を背景にした強引な国会運営が目立つ。望み薄なのは重々承知だが、数の力におごらず、丁寧な国会運営を望みたい。実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな、である。