埼玉・川島町議長「請願署名したか」住民に チラシで「署名者分かる」 - 東京新聞(2016年11月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201611/CK2016112502000124.html
http://megalodon.jp/2016-1125-0955-44/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201611/CK2016112502000124.html


埼玉県川島町議会(定数一四)の石川征郎(ゆくお)議長(73)が九月、議会に提出された請願署名に名前のあった知人に「署名したのか」と問いただしていたことが分かった。二年前には当時の町長に対するリコール署名期間中、石川氏を含む議員十二人が連名で「誰が署名したのか確認できます」と記載したチラシを戸別配布していた。署名した人への圧力にもなりかねない一連の言動に、町民からは「自由にものを言えない町になってしまう」と不安の声も上がっている。 (中里宏)
複数の町議によると、請願書は八月二十五日、三百四十五人の署名とともに議長へ提出された。予約して乗る仕組みに変更された町の巡回バスを、予約なしでも停留所から乗車できる運行に戻すよう求める内容だった。
請願が審議された九月十二日の総務経済建設委員会で、委員として出席した石川議長は「署名に名前のあった人に会ったので、署名したのかと聞いたら『妻が書いたのではないか』と答えた。名前の重複もある」などと発言。請願は賛成少数で不採択となった。
取材に対し、石川議長は「どういう気持ちで署名したのか聞きたかった。署名の真正性を調べるためで法に触れることはない」と答えた。片岡信行議会事務局長も「顔見知りに聞いただけなので問題ない」と述べた。
また、リコール署名時のチラシについて石川議長は「終わった話なので答える必要はない」と話した。
今回の請願に関わった同町の主婦(73)は「そのような言動があったと聞いて情けなくなった」と話し、不信感をあらわにした。

◆声掛け「住民萎縮させる」
請願や反対署名の名簿を基に、議会や自治体の関係者が署名者に署名の有無を尋ねたりする行為は、各地で問題になっている。
滋賀県安土町(現近江八幡市)では二〇〇九年、町長解職請求(リコール)の署名をした町民に、町長が「取り下げて」と電話。静岡県川根本町では一二年、町長と議会リコールの署名簿を見た町議が署名した町民宅を戸別訪問した。
岐阜県関ケ原町で〇五年、町民らが小学校統合への反対署名を提出したことに対し、町職員が「確認のため」として数百世帯を戸別訪問したケースでは、町民側が「請願権や表現の自由プライバシー権などの侵害だ」として〇七年に町を提訴した。
一二年、最高裁で確定した名古屋高裁判決は「署名行為は憲法が定めた表現の自由や請願権によって最大限に保障されるべき。将来の請願行為をしにくくすることや請願をした者を萎縮させることは許されない」などとした。署名者に対しての調査は「厳格な審査を受け要件をみたすことが必要」と厳しく制限した。
同訴訟の原告側弁護団長を務めた笹田参三弁護士は「聞かれた本人が圧力を感じたかどうかにかかわらず、署名者に直接声を掛けるのは請願権の侵害で許されない。意思表明したい人の今後の署名行為を著しく萎縮させる。リコール署名期間中のチラシも間接的な請願権侵害だ」としている。

<請願権> 誰でも国や地方自治体の一切の公務に対して要望や苦情を申し立てることができ、請願したことによって差別待遇などの不利益を受けない権利。憲法16条で保障されている。住民が署名を集め行政機関へ提出するといった行為は請願権の行使となる。行政への請願は請願法で、国会や地方議会に対する請願手続きは国会法や地方自治法などで、それぞれ定められている。