(天声人語)天壌無窮の神勅 - 朝日新聞(2016年11月19日)

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天皇の地位は日本書紀における『天壌無窮(てんじょうむきゅう)の神勅(しんちょく)』に由来するものだ」。おとといの衆院憲法審査会で飛び出した言葉に耳を疑った。自民党の安藤裕議員の発言である。
神勅は、アマテラスが自分の孫であるニニギに告げた命令とされる。「平定された日本へ行き統治せよ、永遠に栄えるであろう」が大意だ。日本書紀に「天孫降臨」にいたる神話として書かれている。
安藤氏は皇室典範についてこう述べた。「国会ではなく皇室の方々でお決め頂き、国民はそれに従うという風に決めた方がいい」。国民の代表が自ら国民主権を否定するような物言いである。
「八紘一宇(はっこういちう)」「皇紀」「神武天皇の偉業」。昨年来、自民党議員の口から皇国史観ゆかりの言葉が次々飛び出す。あえて時代錯誤の語を持ち出すのはなにゆえか。いさめる人は党内にいないのか。
教育史家の故・唐沢富太郎氏の資料館「唐沢博物館」(東京都練馬区)で、戦中の教科書「国史」を手に取った。最初のページに「神勅」がある。文字が格別に大きい。すぐ脇には「教育勅語」の展示もある。「天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼(ふよく)スヘシ」。天壌無窮そのものが、あの時代の狂気を支えた理念の一つだと実感する。
神話は当時の小学生にも見破られていた。唐沢氏の著書「教科書の歴史」によると、天孫降臨の図を教室で見せられた茨城県の小学生は「先生そんなのうそだっぺ」と尋ね、木刀で殴られた。神話と史実の混同が私たちを苦しめたのはさほど遠い昔の話ではない。