トランプのアメリカ(下) 辺野古移設、再考の時 - 東京新聞(2016年11月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016111202000176.html
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一九九六年の日米合意以来、二十年も膠着(こうちゃく)状態が続く沖縄の米軍普天間飛行場移設問題。米国の政権交代はこの問題を再考する絶好の機会だ。
米国の対日専門家によると、米政府にはこんな危惧もある。
普天間飛行場の移設に伴い、地元の反対を押し切って沖縄県名護市辺野古に新基地建設を強行することは、日米同盟を揺るがしかねない。政治的コストが高すぎて、同盟は持続可能なのか−。

◆沖縄米軍基地の脆弱性
最近では米国の安全保障問題の専門家の間で、沖縄に集中する米軍基地が持つ脆弱(ぜいじゃく)性への懸念も出てきた。技術の向上著しい中国のミサイルの射程に沖縄が入るようになったからだ。
有力軍事シンクタンクランド研究所は昨年九月に出した報告書で、中国のミサイルが「最前線にある米軍基地からの効果的な作戦遂行に障害となる」とその脅威を指摘した。
報告書は台湾有事を想定した場合、中国による太平洋地域の米軍基地へのミサイル攻撃では、二〇〇三年までは米国は「大きな優位」に立っていたが、一七年には「不利」に逆転すると評価した。
中国は沖縄も射程に入れる短距離弾道ミサイルを約千四百発保有し、命中精度は五〜十メートルの誤差に収まる。嘉手納基地は比較的小規模なミサイル攻撃でも数日間運用停止になり、集中攻撃を受ければ数週間の閉鎖に追い込まれる、と分析している。
このため、フィリピンやベトナムなどとの軍事協力の強化や、太平洋地域での基地分散の必要性を提言した。
今年一月には別の有力シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は普天間飛行場辺野古移設が「最善の選択肢」とする報告書を議会に提出した。

◆しがらみがないだけに
報告書は同時に、嘉手納基地や韓国、グアムの計四カ所の主要空軍基地がミサイル攻撃に弱く「これらの基地が紛争の初期段階で機能不全に陥れば、戦闘能力回復に困難を伴う。脆弱性は不安定性でもある」という評価を下した。
移設計画の見直しを唱える安全保障の専門家もいる。
ジョージ・ワシントン大のマイク・モチヅキ教授らは六月、米紙に寄稿し、国と県による法廷闘争が決着するまでにはなお十年かかり、日本国内の基地反対の政治勢力はさらに強力になる公算が大きいとの見方を示した。
そのうえで、在沖海兵隊(定員一万八千人)をグアムのほかに米本土カリフォルニア州にも移転し、三千人規模まで削減することを提唱した。
そうすれば滑走路のある大規模な基地は不要となり、海兵隊キャンプ・シュワブ(名護市など)に埋め立てを伴わないヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)を新設することを代案として提案した。
海兵隊削減によって抑止力が低下するとの懸念には、兵器を積んだ事前集積船を日本に停泊しておけば、有事には兵員を空路で急派することで即応できるとした。
辺野古移設見直しには、既得権益を守りたい米軍の抵抗が強い。しかも、過去にいくたびも日米両首脳が確認を重ねてきた合意事項だ。そうした抵抗や重みをはねのけることができるのは最高指導者だけだ。
日米両政府は「辺野古移設が唯一の解決策だ」と繰り返すが、トランプ氏は政治や軍事にしがらみがないだけに、そうした先入観はなく、思い切った決断ができるのではないか。
もっとも、同盟関係の軽視をいうトランプ氏が、日米安保体制の解消に動くのならば、移設問題もおのずと消滅する。
〇九年十一月に訪日したオバマ大統領は都内での演説で「米国は太平洋国家だ」と表明した。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)に加盟する二十一の国・地域は、世界全体の国内総生産(GDP)の六割、人口は約四割を占める。オバマ氏はこの地域に関与していくことが米国繁栄の道だと判断。世界戦略の軸足をアジアに移す「アジア・リバランス(再均衡)」政策を打ち出した。

◆戦略的なアジア構想を
その柱は環太平洋連携協定(TPP)と、海・空軍の全体の六割に当たる戦力を、二〇年までに太平洋地域に重点配備する米軍再編の両輪からなる。
これに対し、トランプ氏は大統領就任当日にTPP離脱を表明すると言っている。TPP発効は難しくなった。
それでも、米国が成長センターのアジアから後退するのは国益にならないという判断が米国では支配的だ。トランプ氏がその点を理解し、戦略性のあるアジア構想を描けば、地域の安定にもつながるだろう。