憲法公布70年 新時代に即した改正を目指せ - 読売新聞(2016年11月3日)

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20161102-OYT1T50154.html

◆緊急事態や合区の議論深めたい◆
憲法はきょう、公布から70年を迎える。
この間、日本の社会や国際情勢は劇的に変化したのに、憲法は一度も改正されていない。
新たな時代に的確に対応できるよう、国の最高法規を見直すことは、国会の重要な責務だ。70年間も放置してきたのは、不作為だと指摘されても仕方あるまい。

◆国会の「不作為」正そう
憲法は、第2次大戦直後の米国占領下、連合国軍総司令部(GHQ)の原案を基に制定された。
国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の3原則は今後も堅持すべきだが、時代の変遷に伴い、現実との様々な乖離かいりが生じていることは否定できない。
読売新聞の国会議員アンケートでは、7割超が「改正する方がよい」と回答した。注目すべきは、改正に慎重な民進党も、55%が改正に賛成していることだ。
改正すべき項目は、「自衛のための組織保持」が48%と最多で、9条に関する問題意識の高さが裏付けられた。以下は、「国と地方の役割」「環境権」「参院選の合区解消」「緊急事態条項」などの意見が拮抗きっこうしている。
1990年代半ば以降、ほぼ一貫して一般国民や国会議員の調査で改正派が多数を占めながら、改正項目さえ絞れない。この状況を打開するには、衆参両院の憲法審査会を活性化し、改正の具体論を掘り下げることが欠かせない。
7月の参院選の与党大勝で、自民、公明両党と憲法改正に前向きな日本維新の会などの議席は、憲法改正を発議できる衆参両院の3分の2以上を占める。だが、憲法審査会の動きは停滞気味だ。

立憲主義は維持される
与野党は、今月10日の衆院審査会の再開で合意した。実質的な議論は1年5か月ぶりだ。臨時国会では、憲法制定の経緯や立憲主義などの自由討議が中心で、改正項目の絞り込みは先送りされる。
立憲主義を議題にするよう主張したのは民進党だ。安全保障関連法を「違憲」と決めつけた憲法学者らの意見を基に、「安倍政権は立憲主義を軽視している」などと批判するためとの見方もある。
しかし、安保関連法は、集団的自衛権の行使を限定容認にとどめ、最高裁判決や従来の政府解釈との論理的整合性を維持した。立憲主義に沿ったものである。
民進党は、安保関連法審議時の不毛な議論を蒸し返さず、建設的な論議を展開してもらいたい。
国民投票過半数の賛成を得るという高いハードルを考えれば、民進党も含め、幅広い与野党合意を形成するのが望ましい。
自民党は、2012年憲法改正草案を提案しないと決め、野党に歩み寄った。現実的な判断と言える。少数派の主張にも配慮し、審査会の議論をリードすべきだ。
安倍首相が「自分は政局の一番中心にいるから党に任せる」と自民党幹部に語ったのも、前面に出ない方が良いとの意向だろう。
公明党は「加憲」の立場を維持し、10月に党憲法調査会の議論を再開した。日本維新の会は、道州制を含む統治機構改革など三つの改正項目を掲げ、各党にも改正の論点を示すよう求めている。
自民、公明、維新の3党が十分連携することが大切だ。
疑問なのは、民進党の対応である。
蓮舫代表は「憲法論議に積極的に参加する」と強調する。「安倍政権下では憲法改正論議に応じない」という頑かたくなな岡田克也前代表の方針を転換した点は評価できる。

民進は建設的な対応を
だが、枝野幸男憲法調査会長は「現行憲法民進党の対案」と述べ、「護憲」の共産、社民両党に同調する。「未来志向の憲法を国民とともに構想する」との民進党綱領と矛盾するのではないか。
今後の議論の焦点は、具体的な改正項目である。
緊急事態条項や、環境権など新たな人権の追加は、憲法制定時には想定されていなかった。
大災害時の首相権限を強化し、効果的な救援を可能にすることは優先度の高い危機管理上の課題である。国会議員の特例的な任期延長とともに、議論を深めたい。
今回の参院選で初めて導入された選挙区選の合区の解消も、3年後に次の参院選が控えていることを踏まえ、協議を急ぐべきだ。
参院の「地域代表」の性格を強め、全都道府県から最低1人を選出する仕組みが想定される。
その場合には、「全国民を代表する」衆院との役割分担を見直し、衆院の再可決要件を3分の2以上から過半数に引き下げることなどを検討する必要がある。