(筆洗)合憲、違憲状態。同じ参院選を吟味しながら分かれる高裁・高裁支部の判決 - 東京新聞(2016年10月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016102002000136.html
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作家の吉行淳之介さんが酒場で鉢合わせした旧知の編集者に原稿料の値上げを求めた。その編集者は吉行さんの親指と人さし指を握り、「次回からはこれで」とささやいたそうだ。
吉行さんは困惑した。二本だから現在の一に対して二となるのか。いや人さし指と親指の長さを考えれば一・五かもしれぬ。友人は二本を隠し、指三本が見えているから「三ということではないか」。結局、どんな意味だったか書いていないが、同じ一つの「サイン」とて解釈が分かれ、混乱もする。
合憲、違憲状態。同じ参院選を吟味しながら分かれる高裁・高裁支部の判決である。「一票の格差」が最大三・〇八倍だった参院選は不平等であり違憲だとして選挙無効を求めた訴訟。高裁・高裁支部によって、異なる判決が相次いでおり、困惑している方もいるだろう。
前回の参院選では都道府県単位の選挙区割りを変更。抜本改革とはいえぬまでも合区を初めて導入するなど三年前の最大四・七七倍から一票の格差を縮めている。
これを「一歩前進した」と見るのか、あるいは「一歩しか前進していない」と見るのかの違いが、判決の分かれている背景だろう。
もっとも、「一歩」でも「一歩しか」でも判決にある共通の願いは政治のさらなる不平等解消への取り組みに違いあるまい。「一・〇」に近づける。これなら誰が見ても解釈は分かれぬ。