原発廃炉 新規参入の電気事業者にも費用負担を検討 - NHK(2016年9月27日)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160927/k10010708361000.html
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大手電力会社が保有する原子力発電所廃炉にした際の費用をどのようにまかなっていくのか話し合う経済産業省の委員会が27日から始まりました。これまでは電気料金に上乗せされる制度になっていましたが、電力の自由化が始まったことで新規に参入した電力事業者にも負担してもらう枠組みを検討します。
この委員会は、ことし4月から始まった電力小売りの自由化の課題を検証するために経済産業省が設けたもので、27日の初会合には、学識経験者や企業関係者が出席しました。この中では全国の原発廃炉費用をどのようにまかなっていくかが議題となりました。
これまで廃炉の費用は電気料金に上乗せされて電気を使う企業や家庭が負担する制度になっていましたが、電力の自由化に伴って4年後にはこの制度が原則、廃止となります。
委員会では新しい負担の在り方として、送電線の利用料=「託送料」に上乗せする案が国から示されました。託送料は電気を使うすべての利用者が負担するため、原発を所有する大手電力会社だけでなく、新規参入の電力事業者と契約した利用者も廃炉費用を負担する形となります。こうした事業者や、大手から契約を切り替えた家庭からは反発も予想されます。委員会の参加者からは「利用者が納得する仕組みを検討してほしい」などの意見が出ていました。
世耕経済産業大臣は27日の閣議のあとの会見で、「電気料金の規制がなくなる中で廃炉の費用も含めてさまざまな課題への対応が必要になっている。廃炉の円滑化、受益者の公平性など、さまざまな観点から徹底的に議論し、国民が納得して福島の住民が安心できるよう解決策を見いだしていきたい」と述べました。
新電力に切り替えた消費者から反発の声
原発で発電した電気を使わない新規参入の事業者に切り替えた家庭からは反発する声が挙がっています。
東京・豊島区のマンションに夫婦2人で暮らす湯浅茂晴さん(53)はことし5月、東京電力から、家庭向けの電力小売り自由化に合わせて新規に参入した事業者に契約先を切り替えました。新たな契約先は大手電力会社に比べて一律5%安くなるプランを打ち出していて、先月の電気料金は、およそ5300円と前の年の同じ月に比べて1500円ほど安くなりました。湯浅さんは、もともと東日本大震災をきっかけに、節電に取り組み始め、自宅の電球をLED照明に変えたほか、窓際に小型の太陽光パネルを設置したり、電気の使用量がリアルタイムで表示される機器を導入したりしてきました。これに加えて、インターネットで各社のプランを比較した結果、電気料金が安くなるうえ、原発で発電した電気を使わない事業者を選んだということです。
しかし、大手電力会社が原発廃炉にする際の費用を新規に参入した事業者にも負担してもらう枠組みが検討されることについて、湯浅さんは「節電の努力をしているにもかかわらずそれを帳消しにしてしまうような話なので政策としておかしい」と話しています。そのうえで、「電力自由化は、そもそも自分で電源を選べるという趣旨だった。原発を使わない事業者を選んだつもりなのにそれがひっくり返される可能性があるのは電力自由化の趣旨と全然違うと思う」と述べ、新規参入の事業者と契約した消費者には廃炉費用を負担させるべきではないと反発しています。
廃炉決定の背景に新規制基準
原発廃炉をめぐっては、福島第一原子力発電所の6基を除くと、関西電力九州電力中国電力日本原子力発電、それに四国電力の5社が原発事故後に合わせて6基を廃炉に決めています。
廃炉決定の背景には、原発事故のあと、平成25年7月に導入された原子力発電所に関する新たな規制基準があります。
原発を再稼働させるにはこの基準に適合させる必要があり、電力会社は多額の費用をかけて原発の安全対策を取る必要があります。
また、合わせて導入された制度によって運転期間は原則40年とされ、例外的に延長する場合には特別の点検を実施することが義務づけられています。
廃炉が決まった6基は建設から40年が経過していたり、発電の規模が比較的小さかったりするため、各社は、安全対策に多額の費用をかけて運転を継続しても費用の回収が難しいと判断しました。

個別にみると、廃炉にかかる費用としては、中国電力は島根原発1号機に382億円、日本原子力発電敦賀原発1号機に370億円、関西電力美浜原発1号機に324億円、2号機に359億円かかると見込んでいます。
こうした廃炉の費用は、これまで、総括原価方式と呼ばれる制度に守られ、すべて電気料金に上乗せすることが認められてきました。
しかし、電力自由化に伴い、4年後には総括原価方式は原則廃止となり、電気を送る際の送電線の利用料=「託送料」にのみ、この方式が残ることになりました。
このため、国の委員会では、この託送料を使って廃炉費用を負担する仕組みを検討することにしたのです。

一方、東京電力福島第一原発廃炉をめぐっては、今回の委員会とは別に経済産業省内に有識者で作る委員会が設けられ、費用をどう捻出するかの議論が行われます。
ここでも同じように託送料で負担していくことが検討される見通しですが、ほかの原発と比べて膨大な費用が見込まれるうえ、利用者からの反発も予想されるため、政府は同時に公的な支援の仕組みを関係省庁間で検討することにしています。