もんじゅ廃炉へ 無責任体制と決別を - 朝日新聞(2016年9月22日)

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遅すぎたが、当然の決断だ。
政府がきのう、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)について、廃炉にする方向で見直すことを決めた。
もんじゅはこの20年あまり、ほとんど運転できていない。動かすには安全対策などに数千億円が必要だ。早期の実用化を求める声がないに等しいなか、多額の国費を使うことは許されない。地元自治体への説明など山積する課題と向き合い、廃炉への歩みを着実に進めてほしい。
もんじゅに投じた事業費は1兆円に達するが、ほとんど成果をあげられなかった。一方で廃炉の決断も遅れた。ずるずると事業が続く無責任体制と決別しなければならない。
原子力開発を進めるために原子力委員会科学技術庁(現文部科学省)が設けられた1956年、政府は最初の長期計画で「主として原子燃料資源の有効利用の面から、増殖型動力炉の国産に目標を置く」とうたった。燃やした以上のプルトニウムができる高速増殖炉は、世界各国が夢見る技術だった。
もんじゅは、実験炉から原型炉、実証炉、実用炉へと進む2段階目にあたる。85年に本格着工し94年に初臨界に達したが、95年に冷却材のナトリウムが漏れる事故が起きた。海外で事故例があったのに「ナトリウム漏れは起こさない」と強弁し、事故後も被害を小さく見せようと事実を隠したり偽ったりして、社会の信用を失っていった。
その間に高速増殖炉の技術的な難しさやコスト高がはっきりし、開発を断念する国が相次いだ。2010年の運転再開で研究成果をまとめる機会を得たかに見えたが、燃料交換装置の落下事故を起こし、1万点に及ぶ機器の点検漏れも発覚した。
にもかかわらず、年間約200億円もの維持費を使って「延命」されてきたのは、事業へのチェック機能が働かなかったからだ。原子力委員会や関係省庁、原子力分野の研究者が一体となり、予算を審議する国会も手をつけようとしなかった。
今回、政府は関係閣僚会議を開いて廃炉方針を打ち出した。政治が責任を持つという意思表示なら、一歩前進だろう。
だが、懸念は少なくない。政府は核燃料サイクルを堅持し、もんじゅ廃炉後をにらんだ新たな高速炉の開発に向けて会議の新設を決めた。もんじゅの二の舞いになる危うさをはらむ。
広く国民が納得できる原子力行政をめざすべきだ。その一歩として、もんじゅ廃炉の実行と、核燃料サイクル全体の見直しが問われている。