(余録)すじの悪いプロジェクトも… - 毎日新聞(2016年9月22日)

http://mainichi.jp/articles/20160922/ddm/001/070/159000c
http://megalodon.jp/2016-0922-2035-58/mainichi.jp/articles/20160922/ddm/001/070/159000c

すじの悪いプロジェクトも「乗りかかった船」との名目で打ち切れぬことが多い。とくにそれまでの費用や労力がむだになるのを嫌い、損失を広げてしまうことを「サンクコスト効果」という。
サンクコストとは「埋没費用(まいぼつひよう)」、つまりもう取り戻せぬ過去の出費である。本来は将来の費用と効果だけを考えて今後を決めるのが合理的なのだが、人間は過去にとらわれて判断を誤る。そこには過去の誤りを認めたくないというメンツや自尊心の問題もあるからだ。
米国の心理学者の実験によれば、小さな子どもほどサンクコストに惑わされない決定ができ、成長とともにそれにとらわれるようになるという(友野典男(ともののりお)著「行動経済学光文社新書)。「毒を食らわば皿まで」は大人、それも集団的な意思決定のなせるところらしい。
サンクコストが国費だけで1兆円という高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉にむけた動きがようやく始まった。22年間で運転したのはわずか250日、年間維持費200億円、再稼働に何千億円といわれる中で子どもでもできる、いや子どもならば簡単な判断だろう。
ただ国はもんじゅを中核としてきた核燃料サイクルは維持する構えらしい。フランスで新たな高速炉を共同開発するというのだが、まだ先の見通せる話ではない。国内に大量のプルトニウムが蓄積される中、なお回らぬサイクルにこだわるのは、やはり過去の呪縛(じゅばく)か。
向に回らないサイクルといえば、2%の物価上昇目標にむけた日銀による金融緩和の継続の発表もきのうあった。何にせよ「乗りかかった船」の危うさは行きがかりにとらわれぬ目で見きわめたい。