性犯罪被害者 「魂の殺人」厳罰化評価 法改正答申で - 毎日新聞(2016年9月13日)

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法相の諮問機関・法制審議会の総会が12日あり、強姦(ごうかん)罪の法定刑の下限を引き上げ、被害者の告訴がなくても加害者を起訴できる「非親告罪」化する刑法改正の要綱を全会一致で採択、金田勝年法相に答申した。「魂の殺人」と呼ばれる強姦罪(法定刑懲役3年以上)が強盗罪(同5年以上)より刑が軽いのはおかしくないか−−。見直しは性犯罪被害者たちの声を受けて始まった。【鈴木一生】
2014年10月、松島みどり法相(当時)が法務省内に性犯罪の罰則に関する有識者らの検討会を設置した。賛同意見が多かった内容が法制審に諮問され今回の答申に至った。厳罰化を柱とする答申内容を被害者や識者はどう受け止めるか。
自らの被害を手記の形で出版した小林美佳さん(40)は1万人近い被害者とメールなどで交流してきた。強姦などの被害者は事件後ぼうぜんとし、時には「何か落ち度があったのか」と自分を責めるケースも少なくない。答申を「ひどい犯罪という意識が社会に広まってきた証し。被害者の期待は大きい」と一定の評価をする。
一方で非親告罪化には複雑な思いもある。「ようやく自分の生活を立て直した時に加害者や裁判と関わりたくない」。親告罪の規定は被害者のプライバシーなどに配慮する目的で設けられており、被害者が望んでいないケースで事件化されることを懸念する。法務省幹部は「被害者の協力なしに事件化は難しく当然、その意思は尊重される」と説明する。
性犯罪の被害者支援に詳しい村田智子弁護士は「被害者が安心して相談できる体制が整っていない」と指摘する。電話相談や警察への付き添いなど被害者支援を1カ所で包括的に行う機関は東京都内でも数カ所。「非親告罪化は『恥じることなく重大な犯罪を早く届け出てほしい』と社会に示す意味もある。周囲でサポートする体制の充実が必要だ」と話す。
性犯罪の加害者らを治療する「性障害専門医療センター」の福井裕輝医師は「加害者を減らすには医療も必要」と話す。考え方や行動に働きかける心理療法認知行動療法」と薬物療法が効果的という。治療開始は早いほど良く「司法と医療が連携し、社会内で治療する仕組みづくりも重要だ」と話した。

強姦罪、名称変更も
今回の答申を踏まえ法務省は具体的な法改正作業を進める。
要綱によると、強姦罪の法定刑の下限を懲役3年から懲役5年に、強姦致死傷罪は懲役5年から懲役6年にそれぞれ引き上げる。加害者と被害者の性別は問わず、強姦罪と強制わいせつ罪などは非親告罪とした。今後の改正作業で強姦罪の名称も変更される見通しで「強制性交罪」などが検討されている。
総会では金田勝年法相が、不動産競売から暴力団を排除する措置や、債権者が裁判所を通じ債務者の預貯金口座を特定する制度の導入などを柱とした民事執行法の改正も諮問した。法制審に設置された部会で今後議論される。【鈴木一生】

性犯罪厳罰化を柱とした要綱の概要

  • 強姦罪と強姦致死傷罪の法定刑の下限を引き上げる(これに伴い集団強姦罪と集団強姦致死傷罪は廃止)
  • 強姦罪の加害者と被害者の性差をなくす
  • 強姦罪や強制わいせつ罪などは非親告罪化する
  • 強制わいせつ罪などで処罰される行為のうち悪質性の高い一定の行為を強姦罪で罰する
  • 18歳未満の子供に、父母などが影響力に乗じて性的暴行やわいせつ行為をした場合の罰則を新設(成立に暴行や脅迫は不要)