(余録)深夜、生徒たちは高校に忍び込みバリケードを築く… - 毎日新聞(2016年7月9日)

 
http://mainichi.jp/articles/20160709/ddm/001/070/145000c
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深夜、生徒たちは高校に忍び込みバリケードを築く。緊張で汗がしたたる。作家、村上龍(むらかみりゅう)さんの「69 sixty nine」は長崎・佐世保の高校を舞台にした痛快な自伝的小説だ。時は題名にある1969年。全国で受験体制への反発や平和運動が起こっていた。
高校生が初めて選挙権を得た参院選があす投票日を迎える。高校生の政治活動に戸惑いもある中で生徒たちは何を考え、どう行動したのか。そしてあのころの若者は、と思う。
「69」の中で主人公が仲間に尋ねる。「オレらのやったこと政治活動て思う?」。考えてもよくわからない。でも祭りだったことは確かだ。当時、読売新聞の記者が出版した「高校紛争の記録」にも都立高生がバリケードの中で目を輝かせて語る場面がある。「これだけ充実した毎日を送るなんて、ぼく生まれてはじめてなんです」
71年、東京と大阪の高校教師各300人に本紙が行ったアンケートがある。紛争で「生徒と教師の相互不信が強まった」という回答が26%。双方が深い傷を負った。一方で半数近くが「生徒の要求に真正面から取り組む姿勢が生まれた」と答えた。学校も変わろうとしていた。
村上さんは「69」の単行本が出版された87年、後書きで「楽しんで生きないのは罪なことだ」と高校生に助言した。だが文庫本になった2007年には「(そう助言する)余裕はわたしにも日本社会にももうない」と記す。若者が冒険できる社会の包容力が失われたのかもしれない。
18歳は社会の空気を吸って青春を生きている。1969と2016。彼らの行動はそれぞれの時代を映す鏡でもある。

69 sixty nine (文春文庫)

69 sixty nine (文春文庫)