社説 視点・2016参院選 奨学金と教育費 「未来への投資」として=論説副委員長・花谷寿人 - 毎日新聞(2016年7月3日)

http://mainichi.jp/articles/20160703/ddm/005/070/104000c
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大学生らが返済に苦しむ奨学金の制度をどう変えていくべきなのか。参院選で18歳、19歳が初めて投票する。彼らには切実な問題だ。
与党は返済不要の「給付型奨学金」制度の創設に取り組むことを選挙公約に掲げている。野党も同様に「給付型」を公約にしている。
政治がこれまであまり顧みてこなかった若い有権者を意識するのは望ましいことだ。だが、給付型奨学金の規模や給付の条件をどう考えているのか、具体的に見えてこない。
現在も制度改革は進められている。国費で賄われる日本学生支援機構の貸与型奨学金のうち無利子奨学金について2017年度から返還方法が変わる。
卒業後の所得が少ない場合は月の返還額を減らし、所得が増えれば返還額も上がる仕組みを選べる。負担軽減が目的だが、利用者が「借金」を負うことに変わりはない。とくに所得が増えない人は長期間返還し続けることになる。
年収300万円以下で返還が困難な人は返還が猶予される「救済制度」を使える。ただし猶予は10年間に限られ、それを過ぎると再び返還を始めなければならない。
返還が滞った時に課せられる延滞金は2年前に年10%から5%に引き下げられた。とはいえ負担は重い。社会に出てから延滞金の返還に追われ、元本が減らないまま返還を続けている利用者もいる。これを「救済制度」と呼べるだろうか。
給付型が増えればこうした負担は軽減されていく。だが財源の問題もある。厳しい財政事情の中、相当な規模で創設するのなら何を削って財源に充てるのか、各党には示してほしい。
同時に、回収優先の返還制度も再考が必要だ。一般の学生ローンと同様に、支援機構は給付にあたり、親族か民間保証機関の保証を求めており、滞納が続けば債権回収会社に回収を委託している。
滞納者に返還を督促する簡易裁判の手続きは年間約8500件に上る。自己破産に追い込まれるケースも多い。
諸外国では返還から一定期間経過すれば、残りの返還額を免除するところもある。
そもそも大学の高い学費をどう考えるのか。国の将来を描く中で若者の高等教育をどう位置づけるのか。日本は国内総生産(GDP)に占める高等教育費の割合が0・5%で、他の先進国に比べて半分ほどの低さだ。
広い視野に立ったうえで、教育への公費負担を「未来への投資」として論じるべきだろう。