日米地位協定 今度こそ抜本見直しを - 朝日新聞(2016年5月24日)

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「今の地位協定のもとでは、日本の独立は『神話だ』と言われますよ」
米軍政下、沖縄の自治を「神話」と言い放ったキャラウェイ高等弁務官の言葉を使って、沖縄県翁長雄志知事がきのう、安倍首相に日米地位協定の見直しを求めた。
元米海兵隊員の軍属による女性死体遺棄事件を受け、沖縄ではいま、「全基地撤去」を求める声が広がるほど激しい怒りに包まれている。米軍関係者による事件・事故をこれ以上繰り返さないためにも、米軍基地の整理・縮小を急ぐ必要がある。
同時に、翁長知事が日米地位協定の見直しを求めるのは、米兵や軍属らによる犯罪が後を絶たない背景に、在日米軍にさまざまな特権を与えているこの協定があるとみるからだ。
地位協定をめぐっては、これまでも米軍人や軍属による犯罪や事故が起きるたびに、日本の犯罪捜査や裁判権を制限する条項が問題となってきた。
今回、元米兵は公務外の容疑で県警が逮捕したため、地位協定上の問題は発生していない。だが、もし米軍が先に身柄を拘束していれば、引き渡しまで時間がかかったり拒否されたりする恐れもあった。
95年に起きた少女暴行事件では、公務外の米兵ら3容疑者の身柄を米側が拘束し、県警の引き渡し請求を拒んだ。
県民の強い反発でその後、凶悪事件に限って起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的配慮を払う」とする運用改善で合意した。その後、全犯罪に広がったが、米側の裁量で捜査が左右される恐れはいまも残る。
こうした運用改善が実現した例はあるものの、地位協定の改定を含む抜本的な見直しは、県の長年の要求をよそに、政府は米国に提起しようとしない。
翁長知事はきのう、オバマ米大統領に直接面会する機会を設けるよう首相に求めた。しかし菅官房長官は「外交・安全保障に関わる問題は、中央政府間で協議するのは当然だ」と否定的な見方を示した。
その中央政府が動かないからこそ、知事は大統領との直接の面会を求めているのだろう。
韓国やドイツは、米国との地位協定の改定を実現させている。なのになぜ、日本政府は米国に改定を求めないのか。
今週、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)のためにオバマ大統領が来日する。再発防止や綱紀粛正を求めるのはもちろんだが、基地縮小や地位協定の抜本見直しについても、首相から具体的に提起すべきだ。