(筆洗)ヘレン・ケラーは一九四八年の秋、広島を訪れた - 東京新聞(2016年5月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016051202000152.html
http://megalodon.jp/2016-0512-0920-04/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016051202000152.html

ヘレン・ケラーは一九四八年の秋、広島を訪れた。見ることも聞くこともできぬ彼女は、原爆ドームを見ることも、被爆者の声に耳を傾けることもできなかった。
だが、一人の男性が彼女の手を自分の顔に導き、触れさせた。その顔に原爆が刻んだケロイドの感触が、「戦争の早期終結に寄与した」と米国が主張する核兵器の真の姿を、ヘレン・ケラーにまざまざと伝えたのだ。
この逸話をもとに長崎の詩人・志田昌教(まさのり)さんは、こんな詩を書いた。



視覚も聴覚も失ったヘレンにとって
触れることが世界を知る唯一の術(すべ)であった
そしてヘレンの細いゆびさきは
健常者の目や耳の感覚を超えて
人類の不条理をあまねく読み取った…

目はあっても何も見ることができず
耳はあっても何も聞くことのできない
束(つか)の間の繁栄に執着するだけの
わたしたちの罪を受け止めるように
ヘレンのゆびさきは不条理と対峙(たいじ)する…

(『脱原発自然エネルギー218人詩集』)



米国のオバマ大統領が今月二十七日に、広島を訪れることになった。現職の米大統領による初の被爆地訪問だが、米政府の説明によると、被爆者と会う機会を持つかどうかは未定だという。
しかし米大統領は、その指で核兵器の発射ボタンを押すこともできる。だからこそ、ゆびさきで原爆の傷痕にじかに触れ、核の不条理を読み取ってほしいのだ。

脱原発・自然エネルギー218人詩集

脱原発・自然エネルギー218人詩集