(筆洗)「パナマ文書」が公開された - 東京新聞(2016年5月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016051102000136.html
http://megalodon.jp/2016-0511-0944-15/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016051102000136.html

<ああ金の世や 金の世や 地獄の沙汰も金しだい 笑うも金よ泣くも金 一も二も金 三も金>。壮士演歌の添田唖蝉坊(そえだあぜんぼう)による「ああ金の世」。一九〇六(明治三十九)年の作というから今年、百十年である。
百十年たとうが、消えるどころか、巧妙化、国際化するばかりの<金の世や>である。それをいやでも教える「パナマ文書」が公開された。
タックスヘイブン租税回避地)に設立された約二十一万社の法人とその株主の名を明らかにしている。実態解明が待たれるが、適切に納税されていれば世界中で人助けになったかもしれぬ大枚である。
「商いは損して得とれ」というが、租税回避は長い目では「損する」という算盤(そろばん)は弾(はじ)けなかったか。違法かどうかはともかく、自分だけは税を逃れたいという心根。それに対するまじめな人びとの疑念の目までは「回避」することはできまい。世界の経営エキスパートは「店のノレンを傷つける」という言葉を忘れている。
「商いは牛のよだれ」。利益を急がず、長く、切れ目なく。これも最近は聞かぬ。目の前の怪しき節税方法によだれを流すは人。しかも、富める層である。
<汁の実に伊勢屋は人の顔を入れ>。古川柳で「伊勢屋」といえば強欲な人を指す。具なしのおつけなので、顔が映る。世界中の「伊勢屋」対策は伊勢でのサミットで話し合ってもらうしかあるまい。