国家に管理される社会に警鐘 赤川次郎、吉川英治文学賞 - 朝日新聞(2016年3月22日)

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報道や思想の自由が国家に管理される世界を描いた、赤川次郎さんの『東京零年』(集英社)が、吉川英治文学賞に決まった。赤川さんは3月初めの受賞決定の会見で「近未来小説として書いたが、現実が追いついてしまった」と危機感を語った。
赤川さんは近年、ことさら直接的に社会問題を小説に描き、エッセーでも問いかけている。周辺事態法や国旗・国歌法の成立後、驚くほど反発がなかったのがきっかけだった。「ジャーナリズムを担う方々は重く受けとめないといけない。特に原発については腰が引けているとしか思えません」。原発事故自体は『東京零年』には描いていないが、「事故に至るまでの精神構造は描きたかった」。
これまでも軍事独裁政権下の日本を書いた『プロメテウスの乙女』など、弱い立場の人間の生き方を模索してきた。「僕の作品に優秀な刑事はほとんど出てきません。警察は国民に奉仕する立場じゃないといけないと思う。いまは国民を監視する立場になっている」
『東京零年』には、権力を握る快感を描く場面がある。紛争やテロも、力を持った者が弱者を従える快感が問題の根幹にあるという。「支配される側がどう感じるのか、という想像力を育てることが、遠回りだけれど問題解決の唯一の道。想像力を育てられなかったのは、作家としての怠慢であり、足らなかった部分だと反省しております」(高津祐典)

東京零年

東京零年