言わねばならないこと<特別編>「国論一つ」狙う 言論法学者・山田健太さん - 東京新聞(2016年3月29日)

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安保法制が施行され、日本は海外で「戦える国」になった。これに先行し、国民の「知る権利」を侵す恐れのある特定秘密保護法が運用されている。さらに、高市早苗総務相の「電波停止」発言など、メディア規制の動きも見られる。三つの連動した動きは何を意味するのか。言論法学者の山田健太専修大教授が、いま「言わねばならないこと」を語った。
時の政権が国論、国益を重視するとき、秘密保護法と言論統制法を制定する傾向が強い。典型は、安保法制が想定するような戦争や有事のとき。その際、政府はこうした法律を使って、言論をコントロールし、政権批判を封じ込め、国論、つまり、世の中の空気を一つにしようとする。古今東西で行われてきたことだ。
例えば明治維新の日本。まだ政権が安定せず、のちに日清・日露戦争へと向かう明治政府は、為政者を批判する出版・新聞を取り締まる讒謗(ざんぼう)律と新聞紙条例をつくった。さらに、軍事上の秘密を探ったり、漏らすと、罰せられる軍機保護法を制定した。その延長線上に、自由主義思想や政府批判を弾圧した昭和の治安維持法がある。
単純に過去と同じとは言わないが、秘密保護法は安全保障や外交に関するものなど、政府が指定した情報を漏らすと、厳罰を科せられ、軍機保護法と同じ趣旨だ。政府は都合の悪い情報を隠すことができ、それを公にすれば罰せられる。
また、高市氏は政治的に公平でない放送を繰り返す放送局に電波停止を命じる可能性に言及した。この発言は、放送の自由を守る放送法の解釈を変えて、放送取締法のように機能させることを意味する。政府を批判することで放送が止められるなら、事実上、讒謗律と同じ言論統制法だ。
高市氏は放送局の「公平性」を強調するが、そもそも、国際基準で言えば、メディアに求められる「公正」とは、反論の機会を与えたり、社会的少数者の意見を尊重すること。「中立」も、メディアが政権や政治から距離を置き、独立していることを指し、高市氏が言うような政治的に真ん中という意味ではない。
どの国でも原則として言論・表現の自由が保障されている。例外中の例外として国家安全保障上の問題があるときだけ、言論・表現の自由は一歩退く。しかし、米国で国家機関の盗聴が広がるなど、世界で例外と原則が逆転する流れが進んでいる。
不幸にも日本もその流れに乗っている。世界の中で情報公開の仕組みは最後尾で、取り締まりの制度は先端にいる。見過ごしてはいけない。気づくと、こうした積み重ねが後戻りできない状況になっている可能性がある。賢い市民、考える市民になるしかない。
<やまだ・けんた> 1959年生まれ。専修大教授。専門は言論法。英国エセックス大・人権法研究所客員研究員など歴任。「言わねばならないこと」本編の26回目(2014年7月20日朝刊)に続き2度目の登場。