女性の活躍 現実に目を向けてこそ - 朝日新聞(2016年3月13日)

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「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名のブログが待機児童問題の深刻さとともに、為政者の無理解を浮き彫りにする事態となっている。
投稿があったのは先月中旬。保育園の選考に落ちた母親が「一億総活躍社会じゃねーのかよ」「会社やめなくちゃならねーだろ」と、激しい言葉で怒りをぶつけた。
国会で野党が取り上げたところ、安倍首相は書き込みが匿名であることを理由に「実際にそれが本当かどうかも含めて、私は確かめようがない」と答弁。与党の議員からは「本人を出せ」などのヤジも飛んだ。
こうしたやりとりに、同じような悩みや不安を抱える人たちが強く反発。国会前での抗議活動や、保育制度の充実を求める署名活動へ広がった。政府・与党は慌てて、待機児童解消に向けた新たな対策の検討を始めたというのがあらましの経緯だ。
あまりにお粗末だ。自民党内には「初動ミス」との声もあるが、ミスにとどまる話ではない。深刻な現状に対する認識を欠いていることが露呈した、と言わざるを得ない。
今の仕事を何とか続けたい、共働きで働かないと生活が苦しい……。どの家庭にとっても待機児童の問題は切実だ。ブログへの共感と、政権への市民の反発がここまで広がったのは、長年の課題がいっこうに改善されない現状への強い怒りだろう。政府・与党はそこをしっかり受け止めるべきだ。
安倍首相は「女性活躍」「すべての女性が輝く社会」を掲げている。しかし、その環境は本当に整っているだろうか。活躍を阻害しているものは、保育サービスの不足にとどまらない。
国連の女子差別撤廃委員会は今月、日本政府に勧告をした。「過去の勧告が十分に実行されていない」とする厳しい内容で、雇用差別を禁じ、防止する法的措置を整えることや、国会議員や企業の管理職など指導的地位を占める女性を増やすことなどを改めて迫った。
日本が女子差別撤廃条約を批准したのは1985年。99年には男女共同参画社会基本法が施行された。働く女性は増えているものの、非正社員が多いこともあり、男女の賃金格差はむしろ広がる傾向。男性の育児や介護への参加もいまだ低水準で、性別による役割分担の意識は根強く残る。世界経済フォーラムの最新の男女格差指数でも日本は101位と低迷したままだ。
「女性活躍」を言うのなら、まず現実を直視することから始めてほしい。