立憲主義 魂の旋律 「五日市憲法」の歌 元教師が作詞 - 東京新聞(2016年3月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016030790135516.html
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明治初期に現在の東京都あきる野市で生まれ、国民の権利に重きを置いた先進的な内容から「現憲法の源流」と言われている憲法草案「五日市憲法」が歌になった。中学校の社会科教師を長く務めた東京都国分寺市箱崎作次さん(61)が作詞し、歌っている。「この憲法草案こそ、立憲主義の危機が叫ばれる現代の世を照らす光だ」。二つの歌に、そんな思いを込めた。 (榎本哲也

♪今一条の光となって 私たちに語りかける 民の自由と平等こそ かけがえのないものと…

あきる野市のJR武蔵五日市駅から車で十五分ほどの町外れにある「深沢家土蔵」。五十年近く前に草案が発見された場所だ。
箱崎さんは先月二十日、この土蔵の前で、カセットテープのピアノ伴奏に乗せ、自作の「今一条の光となって」を高らかに歌った。
一曲だけのコンサートは、五日市憲法ゆかりの地を訪ねる現地ツアーの中で開かれた。参加者約二十人が、箱崎さんの伸びやかな歌声に耳を傾けた。
「歌で五日市憲法を広めるというのは、私も思い付かなかった」。草案を広く伝える「五憲の会」事務局長で、今回のツアーの案内役を務めた鈴木富雄さん(75)は言う。
「深沢家土蔵の前で歌うのが夢でした」と箱崎さん。東京都の中学校教員として主に多摩地区の中学校に勤務し、東村山二中(東村山市)で昨年、定年を迎えた。地元合唱団に所属し、十年ほど前から歌詞を書き始めた。仲間に作曲してもらい、機会をつくりレパートリーを披露してきた。
授業でよく取り上げた五日市憲法草案の歌は、まだどこにもないと思い「ならば自分が」と昨年、二本の詞を書き上げた。「現代に生きる『五日市憲法草案』を歌う2曲」と、総合タイトルを付けた。
一本は、草案の成り立ちや条文を説いた「五日市憲法草案は謳(うた)う」。もう一本の「今一条の光となって」には、安倍政権による集団的自衛権行使容認などで、立憲主義が危機に陥っていることへの思いを込めた。「今一条〜」の一節「民の自由 平等も みるく世(ゆ)(平和な世の中)なればこそと」は、昨年の沖縄慰霊の日で高校生が朗読した詩にあった沖縄の言葉を盛り込んだ。
いずれも作曲は、東日本大震災被災地支援で知り合った福島県の中学校音楽教師に依頼。昨年八月に完成し、CDに吹き込んだ。希望者に郵送料込み一枚五百円で届ける。「一人でも多くの人に歌ってもらい、今の憲法の大切さを発信してくれれば。依頼があれば、駆けつけて歌う」。問い合わせは箱崎さん=電042(573)1590=へ。
<五日市憲法草案> 私擬憲法(民間の憲法私案)の一つ。東京都あきる野市立五日市小学校の前身「五日市勧能学校」教員で、五日市の自由民権運動に大きな影響を与えた千葉卓三郎(1852〜83年)が、81(明治14)年に起草したとされる。1968(昭和43)年、千葉の後援者だった深沢家の土蔵を調査した東京経済大・色川大吉教授のグループが発見した。204条からなり、表現の自由や教育を受ける権利など、国民の基本的人権にかかわる先進的な内容が多数盛り込まれ、現代の憲法に通じる点が多い。

五日市憲法草案/コンサートナイン2015/箱崎 作次