(筆洗)「自分の気に入った詩を見つけて、みんなの前で朗読しよう」 - 東京新聞(2016年1月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016012602000123.html
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寒い日が続いている。お正月前後は暖かかったが、それを帳消しにする厳しい寒気が日本列島を覆う。奄美大島では百十五年ぶりの雪。東京都心もきのうは氷点下二・六度まで下がった。起きるのがつらいわけである。
寒い日に凍える話では芸がなかろう。こんな話はいかがか。詩人、作家のねじめ正一さんに聞いた。
最近の小学校には大人から見ても魅力的な授業があるようで、ある日、こんな宿題が出た。「自分の気に入った詩を見つけて、みんなの前で朗読しよう」。さて主人公は宿題を前にした小学四年生の女の子。内気な性格で人前で話すのもあまり得意ではない。この子も自分の詩を探す旅に出た。
見つけた。

ねじめさんの「せんせいたべちゃった」。

<じゅぎょうちゅう / おなかすいちゃって / きゅうしょくまで / がまんできなくて>、ちょーく、きょうかしょ、らんどせるをたべちゃう。最後は「せんせいたべちゃった」

女の子はみんなの前で読み上げた。大きな笑いが起こった。詩のおかしさ、不思議さ。いつもは無口なあの子がすごい詩を読んでいる。
以来、女の子は変わったそうだ。積極的に発言し、おしゃべりもする。友だちが自分の詩に声を上げ喜んだことがよほどうれしかった。胸の中の氷を溶かすのはほんの小さな温かい出来事か。あの子があの詩と授業に出会えた奇跡にこちらもぽっと温まる。