http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47434
一例として、少し前からインターネット上で話題になっている道徳教材について検討してみよう。
広島県教育委員会は、「『児童生徒の心に響く教材の活用・開発』研究報告集」として、「心の元気」という教材を作っている*1。その中に、「組体操 学校行事と関連付けた取組み」という教材がある*2。小学校5・6年生用の教材で、運動会の組体操での練習のストーリーが題材になっている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47434?page=5
学校では、道徳ではなく、法学の授業に時間を割くべきなのだ。組体操事故を教材にするなら、子ども達に、次のような問いを投げかけるべきだ。
「この事故の原因は何だと思いますか?」
「骨折は、その子から、どのような可能性を奪いますか?」
「この事故について、指導をしていた先生は、どのような責任を負うべきですか?」
「学校がいくらの賠償金を払えば、骨折したことに納得できますか?」
「骨折という重大事故にもかかわらず、組体操を中止しない判断は正しい判断ですか?」
「バランスが崩れても、一人もケガをしないようにピラミッドを作ることはできますか?」
「運動会で組体操を行わせることは、適法だと思いますか?」こうした問いについて考えれば、それぞれの人が異なる価値観を持っていること、異なる価値の共存のために普遍的なルール作りが必要であることを学ぶことができるだろう。また、実際の民法や刑法が、これらの問題にどんな答えを出しているかを学ぶ機会にもなる。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47434?page=6
こう言うと、「法学の授業が大事なのは分かるが、法学は難しすぎて、道徳の授業と置き換えるのは無理だ」と思う人もいるかもしれない。しかし、法学の基本となる考え方や法律の基本的な内容は、それほど難しいものではない。参考書としても、『キヨミズ准教授の法学入門』など、分かりやすくて、面白い本はたくさんある。最近では、社会的活動に関心の高い弁護士さんも増えたから、制度を整えれば、授業に協力してくれる専門家を見つけるのも難しくないだろう。
法は、人間味のない冷たいものではない。法は、人類の失敗の歴史から生まれたチェックリストだ。憲法は、国家が権力を濫用し、人々を苦しめてきた歴史から、国家の失敗を防ぐ工夫を定めたリスト。民法は、人々の生活の中で生じやすいトラブル集とその解決基準。刑法は、よくある犯罪集とそれへの適正な刑罰の目安を定めたリストだ。
法学を学ぶということは、人々の失敗の歴史に学ぶということだ。法には、すべての人の異なる個性を尊重しあいながら共存するための知恵が詰まっている。法は、全ての人を見捨てない。法学に触れて、法の優しさ、暖かさを感じてほしい。
『キヨミズ准教授の法学入門』木村草太著 定価:907円(星海社新書)
- 作者: 木村草太,石黒正数
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/11/22
- メディア: 新書
- 購入: 14人 クリック: 142回
- この商品を含むブログ (27件) を見る