教科書不正 健全な競争に立ち戻れ - 毎日新聞(2016年1月23日)

http://mainichi.jp/articles/20160123/ddm/005/070/061000c
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その売り込みにルール違反が横行していては、教科書への信頼も揺るぎかねない。創造的な工夫で内容を充実させる、本来あるべき教科書づくり競争の原点に立ちたい。
検定中の教科書は外部に明らかにしてはならない。不当な横やりを入れさせないためにと文部科学省はこう定める。
このルールを破り、2009年度以降4回の小中学校検定で教科書会社22社のうち12社が教員ら延べ5000人以上に見せていた。意見聴取などが名目である。
22日発表の文科省の集計では、会社側は、うち4000人近くに謝礼の金品を提供した。中には教科書採択に権限がある教育長や教育委員に中元、歳暮を贈った例もある。
三省堂が校長らを集めて検定中の教科書を見せ、意見を聞いて謝礼に現金5万円を渡すなどした。これが昨秋発覚し、問題は浮上する。他事例も表面化し、文科省は各社に自己点検と結果報告を求めていた。
業界団体は採択関係者に金品を渡すことも自主ルールで禁じている。
違反各社は、ルールは承知していたが、教科書づくりに学校教育現場の意見を反映させ、完成度を高めるため、などと釈明した。
だが、採択の段階をにらんで有力な教員らに働きかける「営業活動」ではないかという疑念もわく。
今回のルールは教科書会社向けのものだが、会合などに応じた教員側の認識の甘さも指摘されている。
また、これ以外でも、営業関係者が教員への働きかけで家まで訪ねる過熱ぶりも続いたため、昨年、文科省が「自粛」を求めている。
売り込み過熱の背景の一つには、少子化による「市場」の縮小傾向もあると指摘される。だが、児童生徒のための内容豊かな教科書づくりにこそ競争の力を注ぐべきだろう。
現行ルールを改める論議には、違反への厳罰案もある。しかし、検定後に各社の「合同説明会」を制度化し、機会平等にするとともに「抜け駆け」を防ぐ考え方もある。より実りある仕組みに知恵をしぼりたい。
教科書検定制度について、私たちはできるだけ教科書の内容を型にはめない、緩やかな運用を求めてきた。
しかし、ルールを一方的に無視し、違反を常態化するのはおかしい。公教育の一線で使われる教科書であることを思いたい。
時代の急速な変化にともない、学習指導要領も、それを映す教科書も変わる。それには学校教育の現場にいる教員の、実践に根差す要望やアイデアが大きなヒントになる。
その意味で「現場の意見」は必要であり、ルールに沿って十分にそれを反映させることが肝心だ。