出版社が謝礼 教科書を汚すまい - 東京新聞(2016年1月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016012302000141.html
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子どもの学びの土台は教科書である。その教科書選びの手続きが、発行元の思惑に左右されるのは許されない。教科書への信頼性が守られるよう、身勝手な振る舞いを戒めるルール作りが急務だ。
昨年の秋に明るみに出た三省堂のと全く同様の不祥事が、教科書業界に広くまん延していた。
小中学校教科書の発行元二十二社のうち、三省堂をふくめて十二社が二〇〇九〜一四年度に、検定中の教科書を教員らに見せたり、謝礼として現金や図書カード、土産を渡したりしていた。文部科学省が発表した。
閲覧させたのは延べ五千百人余り、対価を支払ったのは延べ四千人近くに及んだ。教科書を選ぶ権限を持つ教育長らに中元や歳暮を贈っていた発行元もあった。
問題の広がりを考えれば、長年のあしき慣習とみるべきだ。教科書業界も、公務員である教員らも、倫理観がまひしていると批判されても仕方あるまい。子どもの前で恥ずかしい限りである。
あらためて指摘したい。
まず、文科省の検定ルールをたがえている。圧力や介入を招かないよう、検定中の教科書情報は外部に出さないという約束事だ。
もっとも、教科書会社はルール違反を認識していたというから悪質極まりない。より良い教科書や指導書を作るため、教員らの意見を聞いたといった弁明が多い。
しかし、貴重な意見を得られても、検定中の教科書に反映させるのは難しい。現場の声に耳を傾けることは大切だが、検定申請前にすませておくのが筋ではないか。
さらに、多寡を問わず教員らへの対価の支払いは、教科書採択の公正さに疑念を生じさせる。殊に教科指導力のある教員らは、教科書選びに関わる可能性も高く、汚職の温床にもなりかねない。
不祥事が発覚したのは、東京書籍をはじめ大手が目立つ。少子化に伴う市場縮小を背景に、旅費や謝礼を出してでも、教員らに売り込みたかった面もあるだろう。
業界内の公平な競争が妨げられて、大手有利の傾向が強まれば、結果として教科書の多様性が失われる心配もある。不利益を被るのは公教育そのものである。
発行元と教員らは、教科書の検定から採択までの間は水面下で接触すべきではない。検定前の教科書作りや採択前の教科書紹介は、文科省や地域の教育委員会の公認ルールの下で行うのが望ましい。
税金が投じられる教科書は公共性が高い。汚してはならない。