すくすく保育 守りたい 職員不足、現場に危機感 - 東京新聞(2015年12月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201512/CK2015120502000258.html
http://megalodon.jp/2015-1206-1022-31/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201512/CK2015120502000258.html

保育現場で職員が足りず、保育士が子どもの発達に配慮する余裕が失われ、保育の質が低下すると懸念されている。大けがなど事故も増え、危機感を強めた保育所では若手がベテランに学び、親や地域が関わりを強める試みも。国は待機児童解消のため、保育の受け皿を数十万人分規模で増やす計画を打ち出しており、対策は待ったなしだ。
十一月、東京都文京区の区立こひなた保育園に、別の職場の保育士らが集まった。同園は子どもが遊び方を決め、保育士はできるだけ口を出さない方針。土の山を駆け登ったり、木材を運んだりして遊ぶ子どもへの目配りや声掛けを学ぶ。「ドキドキしました」と感想を漏らす見学者に、福田由紀子園長は「あれもこれもだめと注意していた時より、不思議とけがは少ないですよ」と答えた。
文京区では保育所新設が相次ぎ、保育水準を保とうと、昨年から保育士らが自主的な研修の場を設けた。都内の他の区などでも既に実施され、千葉市は、本年度は認可外保育所の保育士が参加できるようにした。
厚生労働省によると、昨年度は保育の受け皿を十四万六千人分増やしたが、今年四月現在の待機児童は二万三千人を超え、五年ぶりに増加。政府試算では、二〇一三年度と比べ一七年度に新たに六万九千人の保育士が必要だが、平均年収が三百万円程度と一般の水準より低く、人材不足は深刻だ。
心配されるのが子どもの心身への影響だ。保育所への巡回指導をする千葉市には「乱暴な言葉で言うことをきかせようとする」「泣いている子どもになかなか対応できない」などの報告や親からの苦情がある。
元保育士で、研修も手掛ける新渡戸文化短大非常勤講師の井上さく子さんは「ペットに餌を与えるように食べさせる光景はめずらしくない。大人の都合ではなく、子ども目線が必要なのだが」と話す。一方、保育施設の事故は、大けがなどの報告が全国で百七十七件(一四年)で一一年と比べ約二倍。見守りの不足が背景にあるとみられる。
親や地域が関わりを強める動きもある。東大駒場キャンパスの認証保育所は親と保育所の提案で、一三年に保育料を月額五千円引き上げた。保育の水準が下がらないよう、中堅の保育士を引き留めるためだ。
東京都港区などにある「まちの保育園」はパン屋やカフェを併設し、近所の人が気軽に立ち寄ることができるようにした。身近な存在になり、ボランティアなどとして関わってほしいという思いがある。運営する松本理寿輝(りずき)代表は「安心安全を重視して閉じられてしまいがちな保育に、第三者の目を入れることもできる」と話している。
◆国の予算 大幅に増やせ
<「ルポ保育崩壊」の著書があるジャーナリストの小林美希さんの話>
保育の質は待機児童解消のため保育所が増設されたこの数年で目立って低下した。二〇〇〇年以降、新たに参入した企業などによる人件費削減も原因の一つだ。こうした「保育崩壊」は、一部の保育所だけの問題ではない。発達に応じた良質な保育を受けられるかどうかでその子の人生が変わるといわれる。社会がもっと関心を持ち、保育関連の国の予算を大幅に増やすべきだ。