もう一度読みたい:<無戸籍問題キャンペーン>無戸籍、貧困のスパイラル…元凶の772条 - 毎日新聞(2015年12月4日)

http://mainichi.jp/feature/news/20151204org00m040007000c.html

2006年末から始めた無戸籍問題のキャンペーン報道で、多くの人たちにこの問題が知られ、無戸籍でもさまざまな行政サービスを受けられるようになった。その一つである児童手当を頼りに、無戸籍児の人数を把握しようと毎日新聞が実施した全国調査(都道府県庁所在地と政令市対象)で、少なくとも127人が該当することを08年1月22日の朝刊1面で報じた。同日の「クローズアップ」記事中で「多くの自治体では戸籍がない場合、作っていない」としていた住民票については、同年7月の総務省通知により無戸籍児でも記載が可能になった(該当記事は6月26日朝刊。三つの記事とも本文参照)。
しかし、無戸籍の元凶である「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」とする民法772条の規定については「離婚後妊娠が医師により証明されれば現夫の子も認める」とする法務省通達による運用見直しが行われただけだ。救済されるのは全体の1割に過ぎず、残る人たちは裁判手続きなどを経なければ「実際の父」の届けができない状況は変わっていない。また、キャンペーンから7年を経過した今も行政サービスを受けるために当事者が窓口を訪れるなどしない限り、無戸籍者の人数さえ把握できない状態は変わっていない。実際、法務省が14年夏から始めた全国調査による680人(15年11月10日現在)は、把握できた2割の自治体のみの集計によるもので、とても実態を表しているとは言えない。
救済されることなく放置された無戸籍の子どもは成長して大人になり、自身の存在を証明するものがなく社会に出て生活や仕事などでさまざまな不利益を被る。戸籍など存在を証明するものを得ようとしても、保護対象の子どもと異なり、就籍手続きで本当に日本人なのかと疑いの目にさらされ、多くは無戸籍の解消に至らない。満足に働く場さえ見つけられず貧困に陥っていく。それは突き詰めれば772条があるからだ、と言っても過言ではない。【照山哲史】