人情の「下町ノーベル賞」 金子兜太さんら今年は4人 - 東京新聞(2015年11月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201511/CK2015113002000141.html
http://megalodon.jp/2015-1130-0938-52/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201511/CK2015113002000141.html

庶民の暮らしと文化、平和と民主主義を守るために貢献した人を庶民が選び、顕彰する。そんな活動を続け、いつしか「下町のノーベル賞」と呼ばれるようになった。東京都台東区市民グループが主催する「下町人間庶民文化賞」。二十九日、三十回目の表彰式で、本紙「平和の俳句」選者で俳人金子兜太さん(96)ら四人に表彰状を手渡した。 (松尾博史)
賞を主催する「下町人間の会」は、台東区三ノ輪に事務所を置く。原爆投下後の広島で火炎から移した種火に長崎で焼けた瓦からおこした火を合わせた「広島・長崎の火」と、空襲で焼けた家屋の炭から起こした「東京大空襲の火」が、二つのランプにともる。
理事長の川杉元延(かわすぎもとのぶ)さん(73)は、表彰の言葉を練り続けてきた。手作りの賞でも込めた思いは気高い。「金子さんの場合、ノーベル平和賞文学賞を一緒にした感じだと思っていますからね」
会の設立は一九七七年。社会評論家、随筆家の小生夢坊(こいけむぼう)さん(一八九五〜一九八六年)が中心となり、共産党衆院議員の金子満広さんらが発起人に名を連ねた。庶民が暮らす町の文化や芸術を紹介する博物館の建設を行政に働き掛けるのが目的だった。八六年、下町人間庶民文化賞を創設した。
自転車で往診する医師、地蔵を守る住民、戦後に復活した入谷の朝顔市の実行委員長、親身な弁護士、寺の住職…。毎年五人前後の受賞者には、そんな無名の人々が著名人に入り交じる。八七年には故人が対象の「特別功労賞」を新設した。
受賞者を決め、電話すると「そんな賞は知らない」と言われることが多い。賞金はない。贈るのは万年筆と置き時計。それでも、平和を訴える詩を朗読している吉永小百合さん(一一年)ら国民的スターが快く受けてくれた。
金子さんは語った。「菊池寛賞など、いろいろな賞をいただいたが、このような庶民の賞をもらえてうれしい。戦争で庶民が死ぬのを見てきたので、自分の周りの人の役に立つことをしようと思って生きてきた。名誉なことであり喜びをかみしめている」
今年の下町人間庶民文化賞は、下町が舞台の「あしたのジョー」で知られる漫画家ちばてつやさん(76)、浅草のそば店おかみの冨永照子さん(78)、田中正造の短歌を研究する奈良達雄さん(83)にも贈られた。
【今年の下町人間庶民文化賞】=敬称略
現代俳句協会名誉会長 金子兜太
漫画家 ちばてつや
協同組合浅草おかみさん会理事長 冨永照子
歌人 奈良達雄