夫婦別姓訴訟 普遍的な人権の尊重を - 東京新聞(2015年11月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015110502000155.html

夫婦同姓を求める民法規定が女性に差別的で憲法に反するとした訴訟で最高裁大法廷が最終弁論を開いた。夫婦別姓も選べる制度の導入は人生の選択肢を広げる。普遍の人権として判断すべきだ。
夫婦が結婚時に「夫か妻かどちらかの姓を名乗る」と定めた規定が男女平等を定める憲法に反していないか。家族のあり様や結婚、人生に対する考え方が多様になった今、東京や富山などに住む男女五人の原告がこの規定を不合理だと訴えたのは自然なことだ。
最高裁は、新しい憲法判断や過去の判例を変更する場合に十五人の裁判官全員による大法廷に審理を移す。夫婦別姓をめぐる訴訟は四日、最終弁論を終えた。
「夫婦同姓」は家を重視した明治民法の規定が戦後も残された制度だ。「夫または妻の姓を称する」という表現は中立的でも、姓を変えるのは今でも96%が妻である。
夫婦の話し合いで決める場合もあるだろうが「女性は結婚によって姓を変えるもの」という社会通念が作用し、民法規定が生み出す必然の結果ともいえる。高裁で人格権の一部だと判断された姓を一方だけが変えなくてはならないのは差別的だろう。普遍的な人権問題として考える必要がある。
改姓をめぐり周りと摩擦や職業的な不利益を感じる人が増えた。結婚前の旧姓を通称として使うことを認める職場は増えたが、職場によって認めたり、逆もある。公には認められない場面が多い。
夫婦が希望によって別姓を名乗る制度が導入されても不利益を被る人はいない。現状では女性に不利益が多い。「家族の一体感を壊す」という反対派に対し、政府の世論調査では「家族の絆と姓は関係ない」と答えた人が六割に上る。選択的別姓制度の導入もとくに若い世代では賛成が多数派になった。だが、人権にかかわる問題で賛否の割合を条件にしてはいけないのは言うまでもない。
法相諮問機関の法制審議会は一九九六年に出した民法改正案要綱で、選択的夫婦別姓導入や再婚禁止期間短縮、婚外子差別是正などをまとめた。子どもの人権にかかわる婚外子相続については一昨年、違憲とする最高裁の判断で是正されたが、女性の人権にかかわる規定は放置されたまま。女性差別撤廃条約にも反する。
女性の活躍を期待するのなら、基本の人権問題を正すべきだ。最高裁違憲審査権を発揮し、その判断では規定の違憲性や立法府の怠慢に踏み込んでほしい。